[コメント] 冒険者たち(1967/仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
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一度聴いたら忘れられないキャッチーでリリカルなメロディと、グラスハープの奏でる幻想的で優しい旋律、どこまでもはかなく美しいフランソワ・ド・ルーベの楽曲たち。なかでもこの映画のテーマ曲は格段に印象深い。この口笛の音を聴くとなぜか私はいつも、灰色の曇り空に覆われた、ひとけのない海岸の風景を思い浮かべていたものだ。のちに、75年に若くして急逝した彼の死因が、ダイビング中の不慮の事故によるものであることを知ったとき、その勝手に思い浮かべていた情景は、より明確なイマージュとして脳裏に焼きついてしまった。ド・ルーベの音楽において海は、対象を包みこみながら限りなく優しく、そしてどこか死に近い。
そしてつい最近やっと見ることのできた映画本編。若き三人の夢を受け入れなお果てしなく広がる海、限りない希望を秘めた陽光。……やがて空を覆いはじめる物悲しい灰色の雲。水底へと沈んでゆくレティシア(ジョアンナ・シムカス)の骸。……レティシアの形見ともいうべき従弟の少年が、ひとり貝殻を拾っている海岸。おそろしいことにその海岸の光景は、映画の内容を知らずしてド・ルーベの音楽からイメージしていた心象風景とピタリと重なっていた。鳥肌が立った。そこにたしかに広がっていた曇り空、その灰色を媒介として、レティシアの骸が沈む海と、ド・ルーベが藻屑と消えた海は、時代を超えて私のなかで完璧に一致した。
「もう貝は拾わなくていいんだね」
三人のなかでただ一人生き残ってしまったロラン(リノ・バンチュラ)は、少年にレティシアの面影を見出そうとした。しかるにこの曲を書きながらド・ルーベは、レティシアの死を包みこむ海のやさしさに、やがて訪れることになる自らの死の面影をあらかじめ映しこんでいたのではないかと、完全に私の錯覚に過ぎないとわかっていながらも、そう思わずにはいられないのだ。
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