[コメント] 福田村事件(2023/日)
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森監督は「根っからの悪人は描きたくなかった」と言い、「或いはもう少し出すべきだったのかも」とつけ加えた(大意 私の解釈)。水道橋博士をリーダーとする自警団は、混乱し迷いながらも凶行に突き進む。私は実際はこうでは無かったと思う。もっと絶望的な断絶が存在し、それは現代なら一見非常識とされながら、そう言い放つ人間の奥にもある邪悪に根差したものだと思う。…が、そんなものを劇映画で見せても観客の彼岸に行ってしまうだけなので、これで良いのだと思う。
監督はまた「加害者側から描きたかった」と言ったが、私はそれも違うと思う。主人公とされる国家に裏切られ挫折した元教師とその妻、村の中では異質な存在である船頭、デモクラシーに憧れを抱く村長など、観客が寄り添い易い登場人物達は最後まで鬼畜とはならない。彼らは私には実際には福田村には居なかった人間に思われるし(消極的な村民は居たと思うが)、これでは例えば連合赤軍や南京大虐殺は描けないだろう。しかしこの映画でも9人(10人)は殺された。殺される場面は矢張り苦痛を伴なうべく伴なっている。であれば、彼らですら<加害>から逃れられないのであり、これで良いのだと思う。
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ドキュメンタリー監督であった森 達也の作品とは思えない。冒頭から見事な絵作りに驚く。画面といい台詞といい物語といい、<平板>でない。有名俳優に恵まれたが、それらを<殺す>羽目にも陥ってない。ドキュメンタリーではない利点を使い切っている。「どっちだろうと変わりはない」等と監督本人は嘯いてはいるが、そんな訳は無い、流石だ。やはり彼も映画小僧なのだ。
ドキュメンタリー監督が撮った劇映画の佳作。しかし、たとえ拙くとも観るべきドキュメンタリーもあるので紹介しておこう。『隠された爪跡』(1983/呉 充功監督)(mid=27595)
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観賞後に湧き上がったのは、(別作品でも述べたと思うが)昔職場であった出来事のフラッシュバック。研修中に上司がテレビ画面に向かって言った信じられない発言、それをすんなり受け容れている周囲。較べてはいけないのかも知れないが、あの時の私は福田村の神社に居たのと変わらなかった。
その後、私は野田市で働いた事もある。旧・福田村から柏田中の辺りはキッコーマンや野田警察署がある国道16号線沿いより辺鄙な場所だった。本作は一息ついたらイオンスペースシネマ野田にも掛かるらしい。辛いご当地映画だが。…
(2023.09.05テアトル新宿 09.06記す)
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