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[コメント] 正欲(2023/日)

面白い!実に見応えのあるシーンの連続する映画。それはラストまで、ほゞ途切れない。
ゑぎ

 黒画面に人名(役名)が表示され、その人物の紹介場面のような導入シーンが続く。俳優名を列記すると(役名は割愛)、磯村勇斗新垣結衣稲垣吾郎東野絢香佐藤寛太岩瀬亮の6人か。岩瀬が後半(終盤)になって紹介される構成(見せ方)にも意外性がある。

 水の溢れるプラスチックコップ。社員食堂の磯村。ぼうっと立ち尽くす。先輩から声をかけられ、草野球に誘われるが、やんわり断る。ちなみにパワハラやブラックといった描写はない。彼に電話がかかってくるショットで、食堂内をポンと引いて見せる繋ぎがいいと思う。続いて、回転寿司店で一人食べる新垣。こゝでも、彼女をポンと引く繋ぎがあり、良い呼吸だと感じる。新垣が軽自動車を運転するシーンを細かく繋ぐのは、この自動車を使った見せ場がいずれあることを予感させる。帰宅して自室のベッドに寝転ぶ新垣。鏡に映る自分への嫌悪。川のせせらぎの動画を見る。ベッドごと水に浸かるイメージも良い造型だ。

 本作は全編に亘って、スマホ、パソコン、テレビモニターでの動画・静止画の多様な使い方においても上手く興味を繋いでいると思う。そんなことは現代の映画だと当り前という感もあるが、それにしても多用されているだろう。あるいは、食事シーンも多い。稲垣吾郎のカレーライスとオムライス、新垣結衣が納豆や年越し蕎麦を食べるシーンなんかが忘れ難い。

 また、男性一般に対して不安障害のある東野絢香の存在は、本作のプロットの中で浮いている感覚もあるのだが、彼女が階段教室で告白する場面の迫真の演技演出は本作中でも最も心揺さぶられる部分だ。これがあるので、彼女の存在についても、映画として肯定したくなる。彼女絡みのプロットの中で登場する同級生−佐藤寛太の強い(芯の通った)拒絶と防衛のキャラ造型もいい。画面的にも佐藤と坂東希が所属するダンスサークルのダンスシーンがよく撮れていて、こゝも見せ場になる。

 あと、磯村と新垣の絡みでは、喫茶店で指輪を渡す場面の新垣のレスポンスに感動するし、ベッドで正常位のカタチを試すシーンが、可笑しくて同時に哀感のあるいいシーンだと思う。最初はちょっとテレビドラマのパロディっぽいし、ワザとらしさも感じられて、眉をひそめかけたのだが、ハグするカタチになった後の、いなくならないで、という科白には参ってしまった。

 プロット構成として、前半はバラバラに登場した主要人物たちをどう交錯させるのか、とても気になったけれど、ほとんど違和感のない周到な作劇で人物を絡ませていると思う。首都圏(主に横浜)と広島(福山)の人物の移動、横浜内での偶然の遭遇も周到だ。さらに、中盤、後半になっても、我々観客をどこへ連れて行くのか見当がつかず、オロオロさせられるような展開なのだが、これも実にこれ以上ない、という帰結で締められていると私は感じた。稲垣吾郎を映したショットでドアが閉じて暗転という処理には唸る。このショットにも映っている、稲垣の部下−宇野祥平の見せ方、彼の表情の肌理細かな演出も本作のスタンスを表出しており、とても配慮されていると感じさせる部分だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ひゅうちゃん ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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