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[コメント] 市子(2023/日)

海。潮騒。青空。歩く足。黒い服。鼻歌のメロディは童謡の「にじ」。女性−杉咲花の顎のアップ。汗。後ろ姿のロングショット。このシーンの場所は白浜近辺(和歌山県)か。
ゑぎ

 続いてスクーターに乗った若葉竜也の正面ショットが挿入され、帰宅する若葉と荷作りする杉咲とのクロス・カッティングになるので、冒頭と別の時間軸だと分かる。こゝは東大阪か?

 昔の銀塩写真の日付のような、画面右下、赤い文字の年月日表示。時間軸を錯綜させ繋ぐ。生駒山の東大阪市側での白骨遺体発見ニュースを何度も聞かせるのは、これは一回で十分じゃないかとちょっと引っかかったが、杉咲が失踪する前日の夕飯時、婚姻届を取り出す若葉と涙を溜める杉咲の場面。この杉咲のレスポンスで、もう彼女の全編に亘る揺るぎない画面パワーを誰もが予想するだろう。

 本作も(最近の映画でよくある)ほとんどハンディカメラ撮影の映画だ。切り返しも手持ち。全編全ショット手持ちで見せるのかと最初は思って見ていたのだが、しかし、プロットの肝となる場面、ベッドを見つめる杉咲の仰角アップはフィクス。母親の中村ゆりが帰宅して、杉咲に「ありがとう」と云う場面の切り返しも複数ショットにわたってフィクスだ。このように、最重要シーン、あるいは観客に最も動揺を与えるシーンは、逆に固定ショットで見せる、というのも、最近の映画の一つの傾向のように思う。ちなみに、この場面で中村が唄う鼻歌のメロディは、冒頭の花咲の鼻歌と同じ「にじ」。

 年月日表示と共に、黒画面に白抜きで小さく登場人物の名前が出て、関連するシーケンスを繋ぐ趣向もある。小学校時代の同級生(?)2人。こゝで月子と市子の謎を提示し、倉悠貴との濃厚なキスシーンで、高校生の杉咲にリレーする。このカッティングにはドキリとさせられる。高校時代に登場する人物では、森永悠希が倉悠貴以上に終盤まで絡む良い役だ。これは予想を覆すもので、ワタクシ的にはとても嬉しい。しかし、自殺志願者の石川瑠華が絡んだ帰結には唖然とする。脇役でもう一人、杉咲にケーキ屋をやろうと誘う中田青渚も印象に残る良い役だが、彼女にも、もう少しクセのある役をやってもらいたい、と思ってしまった。

 森永の帰結もそうだが、本作の犯罪映画っぽい部分はイマイチだと思う。特に、森永が団地のベランダに侵入して、花咲と渡辺大知とのやりとりを盗み見る場面の演出(窃視の画面)なんかは辟易した。宇野祥平の使い方、例えば警察署の場面で、若葉からの電話に出るシーンの演出にも違和感があり、彼が終盤消えるのもどうか。

 あと、杉咲と離別した後の中村ゆりが住んでいる海辺の町も和歌山か。若葉との海辺のシーンはいいと思う。できれば、中村をフルショットで(海に浸かる足まで)見たかったけれど。全体に、杉咲花の圧倒的な女優映画、という部分での満足度は高い。私は『青春の殺人者』みたいなエンディングならいいな、と思いながら見たのだが、私のこの願望が叶ったがどうかは伏せておく。

(評価:★3)

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