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[コメント] リンダはチキンがたべたい!(2023/仏)

デモがある限り、フランス映画は安泰だと思った。まだまだアイデアに満ちたおもしろい映画を撮れるということだから。
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







令和の「地下鉄のザジ」ということなのだろうか。

この映画のステキなところのひとつは、アクションシーンがきっちり物語に組み込まれているところだと思った。とってつけたギミックではない、理由のあるアクション。ナンセンスではない、地に足のついたドタバタ。

現代美術の展覧会で流れていそうな美しいアニメで、それだけでも目に嬉しくて叫びだしそうなのに、その表現の豊かさは視覚的な見せ場をつくるためではなく、まず物語を伝えるためにあるということに感嘆した。

そう、語るべき家族の物語が、伝えたい感情や思いがあるというのはとても素晴らしい。

おかげでこちらはあっという間にまきこまれ、ハラハラドキドキしたり泣きそうになったり声を出して笑ってしまったり、もう夢中になるしかなかった。それは美術館でアニメーション作品を見るときにはなかなか得られない興奮だった。

キャラ造形が際立っていて、誰もが魅力的なのもよかった。たとえば主人公の友達はただの友達1、2、3なんかじゃなかった。弟の世話もする面倒見のよい姉御肌の子、大きな犬を連れた気さくで気前のよい子、オシャレでユニークなひらめきのある子。

姉御肌の子のいたずら好きな弟や、そのやんちゃな兄であるサッカー男子たち一人ひとりにも、ちゃんと「顔」があった。これは物理的な描き分けが細かいという意味ではなくて(むしろ彼らは視覚的には時に色のかたまりでしかない)、それぞれの動きや言葉に個性があり、血が通っていたということだ。

加えて、物語の背後にある幾多のドラマはどうだ。どうやら豊かではないらしい集合住宅の親たち子どもたち、羽毛アレルギーの音楽好きな男とその老いた母親、店を閉めるだけでなくデモにも参加する卵屋さん夫妻とその息子、親の愛情が感じられなかったりとんでもなく過多な状況で大人になってしまったらしい主人公の叔母アストリッドとマジシャンになりたかった新人警官。そこにはそれぞれを主人公とした物語が、背後のドラマが確実にあった。

映画館の帰り、スーパーでパプリカとチキンを買った。調べてみると、映画のパンフにもレシピが掲載されていたらしく、ロードショー時の入場プレゼントもレシピカードだったらしい。おかげでパプリカチキンがどういうものなのかはだいたいわかった。

できあがったパプリカチキンはとても美味しく、家族にも好評だった。トマトはトマト缶で代用させてもらったし、そもそも鶏肉はすでに締められ捌かれたものを使ったけどね! 

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)DSCH けにろん[*] ペンクロフ[*]

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