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[コメント] 関心領域(2023/米=英=ポーランド)

この映画を見て眠気を覚えました。そのこと自体そういう作品だということなんですが、裏を返せばそれって怖いことなんだと気づかされました。
deenity

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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今年のアカデミー賞で音響部門で受賞していた本作。アウシュヴィッツ収容所の横で普通に平凡な平和な日常を送っていた初代所長ルドルフ・ヘス一家の話です。

まず冒頭から居心地悪かったですね。胸がざわつくような音楽。タイトルが黒い画面に消えていき、そのまま暗転状態が体感1分くやいは続く。心をぞわぞわさせ、溜めに溜めた明転画面は自然の中でピクニックするごく普通の平和なシーン。 本作のテーマの部分にも繋がる象徴的な冒頭演出でした。

アウシュヴィッツで行われていたことを知らない人はいないでしょうし、本作で画面外から聞こえ続ける日常的な銃声、怒号、悲鳴、焼却炉の音なんかは当たり前に聞こえていたでしょうし、ただ見えていないというだけで、何が行われていたかは知っていたことでしょう。 それを異物である我々観客がその世界を垣間見れば、当然違和感を覚えるわけで、こんな環境で普通に生活するなんてありえない、という発想になってくるでしょう。

ただ、ルドルフ一家にはその感覚はなくて、ユダヤ人を下に見てるなんて至極当然のことであるという態度で生活をしていることが端々から伝わってきます。 まあ奥さんとかのイカれ具合とかは顕著ですが、やはりこういう時の子どもの純粋さってのは破綻具合の指標としてわかりやすかったですね。

でまあそういうシーンはあれど劇的に変化があるわけでもなく、もの凄く淡々と日常の風景が映されるわけです。カメラワークなんかも引きの定点カメラで客観的に映されて、さながら監視カメラですよね。 だから見てて正直眠気も誘われちゃって。久しぶりに5分くらい意識飛んでた気がします。 いやー、よろしくない。よろしくないんですよ。でもね、言い訳ではなくこの眠気を誘われるってこと自体に意味があって、要はそれだけ見ている側の人間がそのありえない環境に慣れを感じているということなんですよね。 自分はわずか30分足らずで、というか正直気づいたら慣れてたレベルなのでいつだったのかすらわからないタイミングで慣れてしまったのでしょうね。で、同じ異物キャラとして祖母が現れてハッとさせられるわけですよ。ここがどんな環境だったかって。

たしかに見えてないかもしれないけれど、そこで何が行われているかは知っているわけで、そこへの関心を持とうとすること。いや、正直わからないことを関心を持ち続けること自体が不可能なのだけど、無関心でいることの怖さは感じなきゃいけないのだろうなと思わされました。

だから本作の別の象徴的なシーンに写真のネガのような、暗視カメラで撮った少女が夜な夜なこっそり果物を隠すシーンがあるわけですが、そこに映る少女や果物ってのは生であり、温かみなんだろうなと思います。

突如現在のアウシュヴィッツ収容所が差し込まれるシーンなんかもありましたが、その直前には突如嘔吐するルドルフが描かれていました。 いろいろ解釈はできますが、自分の行いの重みに気づいたとも取れますし、その責任の重みに反応してるとも取れます。 何にせよ、直接的に残虐なシーンを映さず、想像をかき立てる作りにしたのは見事だったと思います。

(評価:★3)

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