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[コメント] 蛇の道(2024/仏=日=ベルギー)

プロット展開の構造、及び拉致状態の強烈なビジュアルが、リメイク元とほゞ同じと云えるので、忠実なリメイクと感じるところもあるが、細部はかなり改変されてもいて、全然違う作品にも感じられる。
ゑぎ

 いずれにしても、全般的感想として、私はリメイク元よりも落ちると思った。まず、タイトルの実装というかタイトルに対する言及に関して最初に書こう。本作では2番目の被拉致者であるゲラン−グレゴワール・コランが、新島−柴咲コウの顔を見て「蛇の目」と小さく呟く場面がある。私は内心「あ、それ科白でやる?」と独りごちたのだが、1998年版では誰も新島−哀川翔のことをそんな風には云わなかったし、もとより蛇を想起させるモノは何も出てこなかった。にもかかわらず、哀川は紛れもなく蛇を体現していたと思う。それに比べると、本作の柴咲に、私は蛇を感じる部分が少なかった。彼女の目にもだ(もしかしたら、科白で説明されたので、天邪鬼な気持ちが働いたのかもしれないが)。

 また、上で拉致シーンの画面がほゞ同じみたいなことを書いたが、実は舞台となる廃工場(廃倉庫)の立地や広さはかなり異なっており、東京の町中で、しかも広く単純な構造だったリメイク元の方が面白い装置だったと思う。ただし、鎖で繋がれた拉致者の横で、新しい鎖を溶接する新島、画面奥では、もう一人の男−本作ではアルベール−ダミアン・ボナール、前作では香川照之が、拳銃の試し撃ちをする、という縦構図ショットに関しては、本作の方が、すぐ近くで行われている点で怖さを感じた。

 それと、復讐対象となる組織に関しては、かなり複雑な(理屈っぽい)ものに改変されている。1998年版は、云ってみればただのヤクザ組織だったのだ。だからこそ、荒唐無稽な活劇としての面白さという意味では、リメイク元の方が勝っていた、というのが私の感覚だ。例えば、前作にあった、コメットさんのような得たいの知れない敵役の存在が本作には無い、という点が不満だ。

 しかし、もちろん本作の良い点も多々あるだろう。その一つとして、肉弾戦の格闘アクションと、拷問シーン(思わせぶり含めた)の強化で、生身のスリルの感覚が増したことを上げることができる。あと、西島秀俊の役割も柴咲の非情さを補強する上で効いており、良い部分だと私は思う。あるいは、柴咲の死神のようなキャラ造型は、終盤だけでなく、拉致シーンで暗闇の中から浮かび上がるように登場する演出などでも印象付けられる。

 そして、最初の被拉致者がマチュー・アマルリックであり、2番目がグレゴワール・コランということで、フランス映画の2人のスターが、こんな汚れ役にも関わらず、一所懸命に黒沢のディレクションに応えていることには感激するし、アマルリックとコランが並んでいて、売り出し中のボナールが尋問する、というシーンには、映画ファンとして、ゾクゾクするような面白みを感じる。

(評価:★3)

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