コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] Cloud クラウド(2024/日)

好調時の黒沢にはしつこい脱線の愉しさがあっただろう、本作は簡潔に纏めて不足感。白眉は訳の判らない奥平大兼で、悪夢の生理が感じられる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







観ているうちはそれなりに面白いが映画館を出たらすぐ忘れてしまう、よくあるサスペンス・スリラーとしか云いようのない物語のなか、随一面白いのは佐野(奥平大兼)。よく判らないが要人らしく、電車のホームの端で松重豊から丁重に武器一式提供され、馘首にされたはずのアルバイト関係にこだわり「アシスタントですから」の一言で土壇場の吉井良介(菅田将暉)を救出する。

私(寒山)は同じ悪夢を繰り返し見る。人物や状況は変奏されるがいつも同じパターンだ。明らかに自分の手落ちでシリアスな状況に陥り、恨みを買って追われて逃げたり隠れたりする。手落ちへの後悔は果てしなく、しかも絶体絶命である。すると救出者が現われる。彼(彼女)は、私が手落ちと思っていたのは実は正しい行いなのだと微笑みかける。私は劇的に納得し、緊迫していた緊張感は憑きものが落ちるように消え去る。私を追跡していた被害者も、同様に納得して微笑みかけてきたりする。それから私はその救出者と、平凡な、何事もなかったかのような時間を持つ。

奥平の件は、この悪夢に似ている。夢というのはパターン化されたものらしいから、私の悪夢もありふれたものなんだろう。本作の製作者も、同じような夢に親しんでいるに違いないと見た。本作はこの生理に寄り添っているところに面白味がある。収束はクルマのなかに菅田と奥平、クルマは定かではないが宙に浮かんでいるらしく、オレンジと灰色の雲に取り巻かれビル群が遠くに見える。ありふれたショットだが、何となく面白いのは、この生理の反映があるからだと思われた。奥平は(なんと)二人で金儲けを続けようと菅田の悪行を肯定し、菅田はここは地獄の入口かあと詠嘆するのだった。

その他、本作でそこはかとなく求心力があるのは、菅田が画面に出てこない件だった。例えば漫画喫茶の店員がネット募集の復讐に参加して、荒んだゲームセンターで共犯者に初対面する当りの禍々しさは切迫感がある。そう感じられるのは、私がこれらの俳優を知らないからじゃないかと思った。他方、馴染みの面子である菅田や荒川良々窪田正孝はいくら熱演しても、他人事であり怖くない。匿名性を帯びたネット犯罪に不似合いであり、東映チャンバラ劇の顔見世興行に似てしまうのだった。最後に猫娘になる秋子(古川琴音)は半端な使われ方で可哀想だろう。

ネット犯罪も転売屋も描写が簡潔過ぎて学びがなく詰まらない。そんななか社会風俗では、荒川が経営している巨大なクリーニング工場(何も製造しないのに何で工場と呼ぶのだろう)が面白い。乾燥機が果てしなく並び、菅田は上着をプレス機らしき機械に流し入れ続けている。たぶんスタジオにセット組んでCGで背景を並べたんだろうと思っていたのだが、もしかして本物だろうか。悪夢めいていて印象的、ドンバチもあそこでやれば良かったのに。いつもの廃工場ではマンネリであった。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)DSCH おーい粗茶[*] ぽんしゅう[*] けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。