コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 洲崎パラダイス 赤信号(1956/日)

橋の向こうはパラダイス。男は金を持ってかれ、女は心を持ってかれるパラダイス。そんな橋の袂に巣食っていたら否が応でも男女の輪郭線はぼやけちまうんだ。
マッツァ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







始めの橋のシーン。

男は無気力だ。まるで生きることに嫌気が差したかのように、これからの身の振り方など何も考えていない様子でうなだれる。対して女は半ばしょうがなく今夜のことを考える。この時点で男に主体性はない。女が主導権を握っている訳だ。男は完全に女に依存した状態と言える。

この状態がしばらく続き、女は金回りの良い旦那の下へ走る。女を失ったこの男は、例えれば舵を失った船みたいなものだ。男が怒り狂った末に神田の街を放浪するのは女への愛ゆえになんかではなくて、安心して依存できる存在を旦那に奪われた口惜しさと怒りゆえだろう。

時は流れ、一人で生きるうち己を回復した男のもとに女が再び現れる。

そして、最期の橋のシーン。

今度は男が女の手を引き走り出す。ハッピーエンド・・・なのか?うーん。

そこで街に出て周りを見渡してみた。すると、自分に相手がいない嫉妬からか(余計なお世話だ!)、いちゃつくカップルがやたら目に付く。でも良く見ると女に引きずられているようにしか見えない男もチラホラ。そんでもって時代が時代なら男の影も踏めないほどに女が引きずられていたこともあったのがこの国。

一方が他方に依存し、また一方が他方の所有物になってしまう。そんな男と女の関係しか築けない(築けなかった?)日本人の国民性。

だから、ラストはハッピーエンディングなんかではなくて、ただ男と女の立場が逆転しただけのこと。

そんな、愛することに不器用な日本人の恋愛模様が『洲崎パラダイス 赤信号』。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)ぽんしゅう[*] けにろん[*] さいもん[*] worianne[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。