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[コメント] 男はつらいよ 私の寅さん(1973/日)

あいつはいつも除け者にされているから性格が兇暴です。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私は前半が面白かった。寅屋一家が旅に出かけ寅が留守番といういつもの逆パターン(異例なことに寅は冒頭とラスト以外柴又にずっと居続ける)は、旅行を云い出せないさくらに始まり、帰宅を待ちわびていたのに風呂場でそっけなく応対する寅まで、善人たちの心理の襞を描いてそうだろうなあと頷かせる細部に富んでいる。人間とは照れ屋なのだという切り口がいい。旅の途中で寅の心配ばかりしている三崎千恵子もいい。若い頃蓮實ファンだった私は寅さんシリーズなど軽蔑していたものだったが、こういう作品は若い頃に観ておくべきだったなあと嘆息するばかり。猿山の猿の解説(上記コメント)は大笑い。

これに比べれば岸惠子登場の後半は通常パターンに戻り弱いが、それでも喧嘩の詫びを入れる岸の颯爽とした姿と子供っぽい寅の対比はいいものだし、寅が岸のお断りを直接聞くという初出の試みは判っていても切ないものがある(ショパンはやり過ぎだと思うが)。ラストの肖像画もいい。本作はシリーズ最高の観客動員らしいが、映画館では三崎千恵子みたいなお客同士が肘突き合わせて、判った? あの似顔絵、岸惠子が描いたのよ、という会話が全国津々浦々で囁かれたのだろう、と想像すると愉しい。「私の」寅さん、という最後の手紙の一節は暖かくてホノボノさせるが、でもこれを説得的にさせるには、岸の造形にもう少し深みが必要だっただろうという憾みは残る。

冒頭の夢落ちは柴又の貧民対吉田義夫が3回連続。ハリマオ、木枯し紋次郎ときて本作はもう殆ど革命劇。この作品は喧嘩シーンの撮影がいい。裏庭での寅対タコは迫力があり、河川敷での寅対前田武彦における佐藤蛾次郎の転落を捉えた縦構図は決まっている。体張って転げ落ちる蛾次郎も素晴らしく、これが私的ベストショット。前田の造形はテレビ司会の彼と同じ素のままで、寅対前田の笑わせる掛け合いは即興だろうか。懐かしい人だ。ワンシーンだけ登場の葦原邦子(岸の画の先生の奥さん役)の柔らかさもとても懐かしかった。

(評価:★4)

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