[コメント] 男はつらいよ 寅次郎物語(1987/日)
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いい話だが濃度が足りない。死んだ渡世人仲間の倅を預かり母親を旅して探す。ついに見つけた五月みどり。通例なら岡惚れが始まるのに論外とばかりに寅は逃げる。倅はあんなに寅を好いているのに。五月はもう渡世人はこりごりだろうと知っているから。「仏に好かれたっていい迷惑だ」。いい話なのに後味薄いのは、その死んだ渡世人の無茶苦茶がもうひとつこちらに迫ってこないからじゃないか。シリーズ通じても中風の花沢徳衛とバイク乗りの渡瀬恒彦が印象に残るくらいで、寅とか関敬六とか、渡世人は良さそうな人ばかりだもの。
他人の子を預かる話は『百万両の壺』はじめ名作目白押しであり、比べれば本作は平均点止まり。子役は突貫小僧に似ていて感じいいのに、もうひとつなのは子役じゃなく演出のせいだろう。
秋吉はなぜ今まで登場しなかったのだろうと思わせるほど本シリーズにはハマっているのに、道中のエピソードのひとつに留まるのはもったいなさ過ぎる。化粧品のセールスも渡世人という位置づけがいいし、隣の部屋の看病を買って出る善意が美しいし、寅に同衾を誘う件など彼女にしかできない自然さがある。自殺しようとしていた女を描くには余りにも尺が短い。もっとたっぷり見せてほしかった。
だた、夜中の子供の看病の件はシリーズ出色の出来。切迫感をギャグで宙吊りにして面白く味わい深く、医者の松村達雄が冴えまくっている。ベストショットは松村に(子供の)お尻を出しなさいと指示されて、自分のヒップを示す秋吉。あと、タイトルバックの五重塔に沿って飛んでいく風船がやけに格好いい。哀しい美保純最終作。
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