[コメント] 男はつらいよ 寅次郎心の旅路(1989/日)
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寅を外国(ウィーン)へ連れて行ってみる。この発想が面白そうだと思うのは分かる。いままでにない刺激があったり、想像もつかない要素と結びついたりして、まったく新しい何かが産まれるかもしれない。しかし同時に、と言うか、むしろ先に立つのは、寅さん的世界と噛み合わず、ただの駄作に終るかもしれないとの心配の方ではないか。心配ばかりしていて映画が創れる訳はないから、寅をウィーンへ連れて行ったことは、よしとすべきだろう。でも、心配どおりに何も起きなかった本作は、まず無惨だし、芸がないというか能がないというか、知恵が足りない。感じがする。
思うに、ウィーンの街を拠点に生業を営む人びとの実生活に触れることが必要だったのではないか。竹下景子のツアーガイドはいいとして、オーストリア人青年で音楽家の恋人がいるなんて、まったく浮わついた発想と思う。淡路恵子に至っては、生活感が全然ないし、『第三の男』のハリー・ライムが旦那さんだったなんて、申し訳ないが、本当につまらない。そもそも柄本明がウィーンにこだわる理由もなんだか不明だが、現地の舞踏会に出られるって、凄いコネクションの持ち主? 地元のパン屋で働く娘が参加してたりと、観光体験的なものなの? 言葉による説明はなくてもいいけど、違和感は拭っておくべきだろう。
竹下が日本に帰国するのに、寅が随行するなんて、子どもじゃないんだからと思うし、所詮はウィーンの彼氏が空港へ竹下を追いかけに行くというシーンの見え見えのお膳立てに過ぎない訳だが、こんなのが映画だと思ってんだねえ(僕もどこかでそんなことを書いた気がするが)。ただ走ってきて竹下と抱き合ってブチュウって、山田洋次さんラブシーン(キスシーン)撮るのお下手ねえ。少なくとも寅さん世界にコレはなかった。見ててモゾモゾした。
この、いかにも地に足の着いていない感こそ、バブル景気に浮かれた当時の日本の社会情勢が本作に落とした陰なのだと、考えることはできる。
60/100(19/8/3見)
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