[コメント] サンダカン八番娼館 望郷(1974/日)
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日本の暗部を描き続けた作家・熊井啓。社会派というよりも、私は「告発系」だと思ってますけど。そういった意味では、山崎朋子のノンフィクションを原作とした本作は本領発揮だと思うんですが、意外にドラマチックな演出だったので驚きました。高橋洋子が風呂場で泣くシーンとか、なかなかの過剰演出(笑)。田中絹代と栗原小巻の友情というのかな、まあ、ドラマチックというか、ベタというか、湿っぽい。ただ、こうしたベタな部分が、切っ先鋭い告発系の題材を丸くしている気がします。この耳の痛い題材をソフトに包むための道具だったのかもしれませんね。それ故なのか、この映画に対して、あまり社会派的な、あるいは思想的なことを語る気が起きません。ま、50年後に観たというのもありますけど。
とかく田中絹代が取り沙汰される本作ですが、まず第一に高橋洋子の映画だと思うんです。当時二十歳くらいですかね。超可愛い。彼女の「女の生きざま」がこの話の主眼。また、栗原小巻演じる原作者に相当する女性史研究者。研究のために身体を張る彼女の姿も、またある種の「女の生きざま」。
ついでに言うと、ターキーこと水の江瀧子も出てるんですよね。映画出演は十数年ぶりだったんじゃないかなあ?私は晩年の柔和なお婆さんタレントのイメージしかないのですが、ターキーも田中絹代も「往年の大スター」でリアルガチに「激動の人生」を歩んできた二人が「女の生きざま」を語るという趣向の映画だったんですよ。
元松竹少女歌劇団男役スターでその後大物プロデューサーになった水の江瀧子に、元娼婦の大物元締めという、実人生を想起させるような役を与える。田中絹代だって同様です。だって、あの大女優がですよ、本作出演時は65歳頃で、67歳で亡くなるんですが、最晩年は借金まみれだったっていうじゃないですか。実生活と役がオーバーラップする。
そういった意味では、役の向こうの「女の生きざま」を垣間見た気がします。そう考えると、田中絹代は実人生も『西鶴一代女』なんだな。
(2024.09.07 CS放送にて鑑賞)
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