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[コメント] 新幹線大爆破(1975/日)

飛翔に思いを託したのは中小企業の経営者ではなく、映画産業そのものだったんだ。

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







新東宝の解散、大映の瓦解、日活の没落は映画撮影システムが成り立たない、そんな時代のオールスター総出演映画がこの映画。出演者は、高倉健 (東映)宇津井健 (新東宝・大映)志村喬(新興・マキノ・日活・東宝)丹波哲郎 (松竹・新東宝・東映・丹波)千葉真一 (東映・角川)渡辺文雄 (松竹・東映)等、映画のいい時代を経てきた俳優達が大時代な演技ながら、草臥れた現代人を熱演している。また、テレビ俳優達の好演も見える。脚本も『スピード』等より良くできていて、大げさなサスペンスで手に汗握る場面も少なからずある。赤いシリーズ張りの宇津井健の苦悩に会場は爆笑の渦だ。まさにオールスター興業の醍醐味であり、日本映画史上最上級のオールスター映画であるかもしれない。しかし、この映画に華は全くない。画質の劣化は映画黄金時代と比肩すべくもないレベルであり、まるで、2時間もののテレビサスペンスドラマのようである。音楽、照明も同様。

だけどね、この映画の登場人物の苦しみは映画館関係者のそれなのかもしれない。中小企業の社長、インテリ左翼崩れ、自暴自棄な若さ、組織に擂り潰される会社員、そこには時代に翻弄される映画人の断末魔が見える。結局、映画の斜陽化を止めることは誰にもできなかった。過剰なスピードは止めたのではなく、止まったのだ。ラストシーンで白黒スクリーンに倒れる主人公に、観客は悲しい活動屋を見る。

関係ないのだけれど、個人的には伊達三郎さん が好きです。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)週一本 pori はしぼそがらす[*] 荒馬大介[*] マッツァ[*] ぽんしゅう[*]

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