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[コメント] 鬼畜(1977/日)

親と子供の間に立ちはだかる現実の壁。緒方拳演じる父親(素晴らしい演技だった)は、決して“完全なる鬼畜”ではない。むしろ、社会的にも人間的にも、最も弱き存在として描かれている。彼の演技を通して、作中では常に「生活が維持できない時に、親はどのように子供と向き合えば良いのか?」という疑問が我々に投げかけられる。
かねぼう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画はこの疑問に答えているだろうか?否、結果的にこの映画で提示されるのは、問題の解決策ではなく、問題の強調されたイメージであり、むしろ問題をさらに複雑化していると言える。しかし忘れてはならないのは、この映画はそもそもそんなことを試みる作品ではなく、それよりも一つ普遍的な次元における主張を試みるものであるということだ。

すなわち、「この問題は確かにどうしようもないかもしれない。」と認めつつも、そこに残るわずかな希望として、ラストに“親子の愛”を主張するのが、この作品なのだ。何とも美しい話ではないか。すこし間違えれば陳腐な話になってしまいそうなものを、全くそのような印象を与えずにまとめ上げたのは紛れもなく監督と俳優の力量の成せる技であろう。特に緒方拳の演技は素晴らしいと感じた。現実的要因によって倫理観を歪めざるを得ない男が、倫理的観点における人間/非人間の狭間を、苦悩しつつ彷徨う様子を完璧に表現していたように思う。

ラストは日本的な倫理観を体現するようであり、人間の尊厳というものをひしひしと感じさせる。ただ、今見ると多少お決まりのパターンであるように感じてしまうのは仕方のないことか。

それにしても、このような作品を見ると、やはりどこかホッとするものである。公開当時はホッとするような映画ではなかったのかもしれないが、それでも現代の世相と比較すれば、十分に救いがあるように思えてしまうのだ。そしてそのような現代だからこそ、この映画の子供がラストで父親を守ったように、また父親が息子に懺悔したように、最低限の倫理というものを再確認する必要があるのではないか。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)死ぬまでシネマ[*] ぽんしゅう[*] Myurakz[*] けにろん[*] sawa:38[*]

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