[コメント] スターシップ・トゥルーパーズ(1997/米)
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ロバート=A=ハインラインの傑作SF「宇宙の戦士」を元にしたSF大作。「宇宙の戦士」はたまたま丁度ヴェトナム戦争の始まった時期に書かれたもので、ヴェトナムに放り込まれる兵士達を思い切り高揚させたとも言われている(人間とは相容れないというバグスの存在が、得体の知れない東洋人に結びついたのだろう)。
それでこれまでにも何度か映像化の話はあり、特に日本ではこの作品は多くのロボットアニメに影響も与え、アニメでしか作られないだろうと、かつては言われていたくらい。
だが、それを作ってしまった人物が登場した。
1990年代後半はCGの登場によってハリウッドでは次々とSF大作が生まれていた。冷戦構造が崩れ、アクション大作で敵を作りにくくなったのが大きな理由だと思うが、やっぱり敵は強大であって欲しい。と宇宙に目がいったのかも知れない。『インデペンデンス・デイ』(1996)なんかが端的にその傾向を表していたと思うが、本作はその流れに沿って製作決定された作品だと思われる…“思われる”という曖昧な表現をしたのは、何をトチ狂ったか、この作品にあのヴァーホーヴェンを監督にしてしまったことで、全く意味合いが異なる作品になってしまった。これがプロデューサの無知なのか、あるいは最初から皮肉な作品を作るつもりで本作の監督を依頼したのかは分からない。
それで期待通りなのか、あるいはとんでもない暴走なのか理解に苦しむが、とにかくもの凄く変な作品が出来上がってしまった。
暴力描写で言えばヴァーホーヴェン監督は定評のある監督で、特に『ロボコップ』(1987)で見せた容赦のない暴力描写は、到底子供たちには観させられないとされたほど。ただ、単なるノリで作ってるんじゃないか?と思われる節があり、それがはまるととんでもなく面白い作品が出来上がるが、はまらないと箸にも棒にもかからないようなのが出来てしまうのが困った監督。
で、本作は、期待通り(?)とんでもないものになったが、それが「宇宙の戦士」ファンを激怒させてしまった。なんせ、これまでこの作品が作られなかったのは、パワード・スーツをどうやって動かしたらいいか?と言う点にあり、CGによってやっとそれが出来る。と思った矢先、ヴァーホーヴェン監督は見事にそれを切ってしまった。「今まで待ったのは何だったの?」という原作ファンの呆然としたつぶやきが聞こえてきそうだ。しかも原作の設定から取ったのは、敵が昆虫型の宇宙生物で、主人公が歩兵部隊の一員である。と言うそれだけ。原作にあった叙情的雰囲気や親子愛描写などは見事なほどにすぱっと切り捨てられてしまった。しかも何故か主題は四角関係の、あたかもラブコメとも見える設定…これで怒らないと言ったら嘘だ(ちなみに何故パワードスーツを出さなかったのか?と言うインタビューに答えた監督は、一言「面倒くさいから」と答えたという)。
だけど、原作未読の人か、あるいは原作は読んでもはまれなかった人間とかだったら、話は別。私は完全に後者。あの作品をよくぞここまでとんでもない、無茶苦茶なものに仕上げてくれました。一発でこれまではまりきれなかったヴァーホーヴェン監督の大ファンになったくらい。
物語は、兵士一個人から見た戦争であることは原作と同じだが、戦争そのものが命を賭けたお祭りって感じ。リアリティや兵士の孤独など、そんなもの知った事か!要は戦闘シーンにメリハリがあればいいのだ。と言う強引なノリのみで突き進んでしまった。ただ、そこに皮肉や悪意と言ったレン味を山ほどぶち込んでいるため、同系統のベイ監督作品なんかと較べると、明らかに濃いし、暗い笑いに包まれている。図らずも国威高揚に使われてしまった原作に対し、完全に軍国主義をバカにして、全てを皮肉な笑いに包み込むという、全く逆の作品を作り上げてしまった訳である。この視点があるからこそ、ヴァーホーヴェンは凄い!
しかも一切のフォローをしない。だからこれだけ政治色に溢れていながら、一切政治的主張をしてない。全て丸投げである。お陰で右翼的だろうが左翼的だろうが政治的主張のある人は本作に眉をひそめるだろう。だけど、だからこそ本作は意味があるのだ。
『ロボコップ』にあった悪意のCMも健在。これも一切のフォローが入ってないけど、だからこそ監督の悪意がとても楽しい。
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