[コメント] うる星やつら オンリー・ユー(1983/日)
この作品はテレビ版のヒットを受けて作られた『うる星やつら』の劇場版第一作目。押井守にとっても興行的には第一作目の監督作品となる(実はお蔵入りした『ニルスの不思議な旅』が実質的な第一作目)。
元々のテレビシリーズからして、この当時は押井氏が作りたいように作り、それを受けて制作のアニメーターもかなりノッて作られていただけに、ブラウン管の中には異様な熱気が溢れていた(実は当時私の住んでいる地方ではテレビ版が放映していなかったため、再放送で見たのだが)。そこを出て一人前のアニメーターになった方も多数おり、アニメーターの登竜門としての位置づけがなされていた。その分、若い才能が溢れかえっていた(それが行きすぎて失敗も多数あったが)、それらは実験的なカメラ・ワークにも表れている。セルアニメは兎角予算とのかねあいでセルの枚数が抑えられがちなのを、新しい技巧を駆使することによって極めて動きを派手にしていた(端的な例は動くキャラの視線で画面を展開させること。これは同時期に手塚治虫が『ジャンピング』で試みているが、これは視線にある背景と視線の内にあるキャラクターを全て動かさねばならず、通常であればもの凄いセルを使用する。これを、セル枚数をとにかく抑えつつやってしまった。その技術には今見ても驚く程)。
テレビであれ程の動きのある絵を作り上げたスタッフが作った映画だと言うことで、かなり前評判も高かったようだ(背景に『ガンダム』ブームがあったこともあるが)。
翌年続編映画が作られたこともあって、興行的にもかなり良かったらしい。又、原作ファンにとっては「これが唯一の『うる星やつら』の劇場版作品だ」(当時)と言われる程、評価は高かった。
しかし、である。この作品は押井守の並々ならぬ努力を必要とした。簡単に言えば、自分を抑えすぎた。大筋を脚本に沿って、出したくもないキャラクターをただ受け狙いのために出し、やりたくないベタベタのラブ・ロマンスを演じさせた。当時のストレスは凄まじいものだったらしい(そのフィード・バックか、映画制作時のテレビ版の無茶苦茶さは凄まじい程!)。
ただ、それでも可能な限り、物語の大筋を変えない範囲で後年の押井作品につながる演出は多数なされていた。冒頭のF15を尻目に疾走するサイドカーのシーンは当時最高の技術力を持って作られていたし(ただし、表現がやばすぎたらしく劇場版ではカットされている)、ジャンクフードの偏愛ぶり、意味もなく出てくる犬や猫、戦闘シーンのリアルさとそこに出てくるきわどい台詞(「進め一億火の玉じゃ」「名誉と栄光のため、諸君の命を捧げるのだ」「死ぬ時は一緒だぞ〜」(「戦争になってそんなに嬉しいの?」という台詞を受けて)「ああ、嬉しいね。これで俺たちも戦争を知ってる子供たちだもんな」等々)
実はこの映画が評価されたのは、普通のラブ・ロマンスではなく、むしろこのような小技の部分だったと言うのが皮肉というか、幸運というか…
自分では不本意なこの作品が受け、そしてその受ける要素が自分の演出にあったことを知った事が押井守に傑作『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を作らせることになった。
以降『うる星やつら2』に続く…
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (7 人) | [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。