[コメント] プライベート・ライアン(1998/米)
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……本作をただ単に「第2次大戦はこれだけ壮絶だった」という観点だけに限定して考えてしまうのは良くない。1945年以降も、アメリカは何度戦争に絡んだのか? その度に徴兵された若者達は「使命」という理由を付けさせられて命がけで戦地に向かっているのである。今回のイラクでも「終結宣言」をしてからどれだけの兵士が死んでいるのか。もう無駄死にとしか言いようが無い。
「○○国を支援する」「悪の中枢を倒す」という訳で、アメリカという国は何回戦争をやって、どれだけのアメリカ人を死なせたのか。我々日本人は「一般市民を巻き込むな」とか散々叫んでいるが、アメリカ軍の全ての兵士達も、元をただせば一般市民なのである。皆、家庭があるのだ。戦争に反対していても徴兵はあるし、その間に戦争があれば実際に行くこともあり得るという「現実」が待っている。そんな危険がほとんど無い状態の現代日本でどうのこうのと言い続けているのを見ると、逆に皮肉を込めて「ホントに平和だね」と反論したくなる。
人は、使命の為に、そして国の大儀の為に死ぬことがある。「こんなことになぜ命を懸けなければならないのか」と思っても、死ぬことがあるのだ。さらにこの論を膨らませるなら無論国家の大儀に限らず、宗教的イデオロギーの為に「殉教」という名を持って自爆する人達をも含むことになるかもしれない。……まあ、少々深く突っ込みすぎかもしれないが、だとしても、信念の為に死ねという教えは果たしてどうなのか? そんな不条理が過去に、そして現在の世界において繰り返され続けている。スピルバーグは本作で、そんな「使命」の為に命を散らした全てのミラー大尉に捧げているのだ。
もう一つ気になる最後の旗だが、国に讃える意思が無くても俺は国旗を掲げて讃えるぞ、ということではないのか。あの場面を「アメリカよ栄光あれ」ととらえるようなら、それこそ危ないと感じる。もしも舞台が中国で、鏡大尉を始めとする兵士8人が一人の兵士・来庵を無事日本に帰すまでの物語、その名も『来庵二等兵』なる映画があったとしたら、ラストシーンはどうしますか? 自分が監督だったら「使命の為に散った全ての鏡大尉に捧ぐ」とか付け加えたいぐらいである。55年前の日本で国家の大儀と使命の為に、どれだけの人が死んだかを忘れたとは言わせない。
アメリカ本国で一度「17歳以下は鑑賞不可」になりかけたところを「ノルマンディーの作戦には17歳のヤツも参加してたんだぞ、そいつらに見せなくてどうすんだ」と猛反発、どうにかR指定にまで下げさせたスピルバーグは漢である。
……それにしても、自衛隊の新隊員教育時にこれを見せる教官とかいるんだけど、いいのかね?
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