[コメント] 八つ墓村(1977/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
大昔に原作を読んでいる。映画の方は見たのはずっと後。 原作は大きく改変されている。
もちろんそれでいい。「小説の論理」と「映像の論理」は全く違うのだから。 そして、この77年の映画は、原作の持つホラー的側面を推し進めて改変したものだと 言えると思う。小川真由美が能面をかぶって・・・被ってないのか、 襲ってくる場面なんて原作にはないのだが、まさにホラー。
「祟りじゃー」で有名になった映画だが、美也子の犯行は計画も動機も一応あるのだが( この動機も原作とはかなり違う)、背後には祟りがあるという設定。
田舎町とか村とかの風景を見ていると、こういう日本の風景や気候があっての日本の怪談なのだな、と思うのだけど、この映画はそういう恐怖の70年代バージョンって感じである。
しかし、原作ファンは、ずっと不満だった。俺もそうなのだが。 それは「典子抹殺問題」につきると思う。原作の重要人物が、この映画には、その後の多くのドラマでも、出てこないのだ。典子の存在は消されていったのである。 (78年、91年の古谷一行バージョン、95年の片岡鶴太郎バージョン、04年の稲垣吾郎バージョン―いずれもドラマ―では典子は登場しない)。
美也子、春代、典子、3人のヒロインが原作には登場する。そして原作ファンなら第一のヒロインは典子と誰もが認めるだろう。金田一全作品のヒロインランキングでは毎回トップは典子らしい。映像では抹殺され不憫だから同情票が集まったのかもしれないが、しかし実際読んだものとしては、誰もが魅了される「みんな大好き典子ちゃん」なのである。
美也子は、最初、美しさと聡明さで辰弥を魅了するが、中盤では次第に登場機会が減少、 さらに終盤ではよそよそしくなり、辰弥の前に姿を現さない。(これも作戦であるが)。 ましてや辰弥との恋愛シーンなんてない。
代わりに次第に、春代が目立ってくる。外見は地味だがその物腰とやさしさですぐに辰弥は春代に心を許し、姉として信頼ししたうことになる。 春代も時には、辰弥への事件の疑いにたいして、体が弱いのに激しく抗議をしたりする。
美也子がフェイドアウトするにつれて、最初春代が、その後しだいに典子が目立つようになる。
外見の評価は最初は最悪。おつむも悪そうという辰弥の評価だった。 しかし天真爛漫さと明るさで辰弥の心を開き、実は聡明で機転も効く女性だとわかる。 実はかなり勇敢でもあるし。(愛の力だろうな)。
さらにはこれも愛の力か次第に美少女に変化する(生き生きとしていったのだろう)典子こそがこの小説の真のヒロインなのである。
春代が殺されて以降は、まさに典子ワールド全開で、インディジョーンズさながらの洞窟内の大冒険を、辰弥と典子は繰り広げることになる。 実はこの小説、後半はかなり楽しい。大冒険ファンタジーなのだ。
ところが、典子が登場すると映画としてはしんどいのだろう。
ひとつは、映像では犯人は最初だけでなく、ずっと登場した方がいいのだが、原作通りだと、犯人が最初しか登場しないことになる点。
もう一つは、原作通りだと金田一の出番が少ない点(この点はこの映画は関係ないが、その後のドラマや映画ではポイントとなる。例えば稲垣バージョンでは金田一が典子の役割を兼ねて一緒に冒険することで出番を増やす)。
尺の問題もあるだろうし、大冒険を映像化するには予算の問題もあるのかもしれん。 「おどろおどろしさ」を最後まで継続させたいという意図もあったのかもしれない。 清涼感溢れる典子は不要だと。(結果、初々しい典子とのラブシーンは、ショーケンと小川真由美のむせかえるようなラブシーンに変化する)。
96年の映画では、典子はそれなりに復活している。(原作ほど活躍はしないし恋仲には ならない)。
2019年のNHKのドラマ盤では、この映画以降の美也子との恋愛の設定は残したまま、 最後の典子と結ばれるというところだけは小説通りの設定にはしたが、押しかけ女房状態に なる。 でもこれでは典子はただの不思議ちゃんに過ぎないような…まあ不思議ちゃん的要素も原作の典子にはあることはあるのだけど。
このように、なんとか典子も復活させる試みはなされているのであるが。 (因みに犯行の動機も経過も最近の映像作品ではより原作に近づける工夫はなされている。)
原作どおりの設定の、次第に美しく変化する典子。時には勇敢に主人公をひっぱる 典子を一度は映像で見てみたい、という次第。
そして、同じ思いの原作ファンは多いと思うのだが・・・ 女優は誰がいいだろう? この問題も大きいかも。(ちなみに喜多嶋舞と佐藤玲が過去演じてはいるが・・・)
最後にもう一度書くけども、映像の論理は小説の論理とは別。いろいろ書いたが、原作そのままに しろという批判はしてないぞ。
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付けたし
里村典子は、岸井ゆきのが似合いそうかも、と考えて「八つ墓村 典子 岸井」で検索してみるとヒットした。同じようなことを考えているひとは、結構いるもんだなと。
ちなみに原作では、月足らずで生まれ、27歳くらいの年齢だがずっと幼く見え、10代後半くらいにしか見えない、おでこが広く、頬がこけた女性である。
もちろんすべての設定が当てはまる必要はないのだが、童顔でお馬鹿さんっぽくも見え、不美人に見えるという設定と、実はしっかりした女性で、生き生きとなるにつれ美しく見えるという設定のどちらも似合う女優となると選択肢が限られてくると思う。佐藤玲も好演してはいたし、結構いい線はいっているとは思ったが。はっきり原作のような設定にはなっていなかった。
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