コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] カプリコン1(1978/米)

政府は信用ならないと言う映画であり、映像は信用ならないと言う映像でもある。いずれにせよ、本当らしい虚構は人々を楽しませる、という真実の例証のような映画。『2001年宇宙の旅』の対極にある作品。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







2001年宇宙の旅』は、未だ実現する前だった月面着陸を、現実感ある映像で先取りした作品でもあったのだけど、この『カプリコン1』は逆に、既に実現している筈の月面着陸が、現実感ある映像による虚構であったとするアポロ計画捏造説に想を得たらしい作品。何でも、「ラムズフェルドら高官がキューブリック監督に、アポロ計画の捏造映像の制作を依頼していた!」とする偽ドキュメンタリーが放送された事もあったとか。

この映画の監督が後に、他ならぬ『2001年宇宙の旅』の続編『2010年』を監督するというのも何か因縁めいて見えてしまう…、なんて事を考えているのは、たぶん僕だけでしょうね(笑)。

気の利いた台詞に何度もクスッと笑わされ、切り取り方が工夫された画面には、時々ハッとさせられる。この二つが相乗効果を上げているのが、逃亡する宇宙飛行士の内、二人目が捕まる場面。長々と冗談を言いながら自分を励まし、高い岩山をやっと上りきったと思ったら、そこには既に、追っ手のヘリが二台、沈黙の内に待ち構えていた。まるで火星のような不毛の大地に響き渡る彼の哄笑と、冷たく佇む、黒々としたヘリ。このインパクトは、劇中の白眉だった。

この映画、芯の所ではなかなか真剣な問題意識を感じさせるが、それすらもサスペンスを高める要素として娯楽に仕立てている印象もあり、その意味でも、形而上学的な深遠さを秘めた『2001年宇宙の旅』とは対照的。ただ、比べて観ると、色々考えさせられる所もある。映像は嘘を真実らしく見せ、人々を昂奮させるのだ、と主張するこの映画そのものが、噂話を下敷きにした虚構だという、入れ子構造というか、逆説的構造というか。この映画の問題意識がどこまで本気なのか、も、どっちとも取れる印象。そんな如何わしさすらも、「映像の如何わしさ」という作品の主題に沿っているのがまた、面白い。そんな所も含めて、この映画、好き。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)けにろん[*] ダリア[*] Myurakz[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。