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[コメント] 奇人たちの晩餐会(1998/仏)

あ、奥さん待って…自分も連れてって!開始10分でこの家を出て行きたくなった。個人的にフランス人の嫌いなところが100%凝縮されてる。ユーモアとエスプリは別物?
mize

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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 コメントはあくまで個人的な嗜好なので、フランス好きな方およびフランス人の方、ごめんなさい。でも英国のブラックユーモアが好きな自分にとって、フランスのエスプリなるものはどうも相容れない。現に英国人とフランス人は犬猿の仲らしいし。勝手な分析だけど、英国では「自分の嫌らしさ、もしくは英国人の持つ嫌らしさを無表情のまま大袈裟に表現して、その嫌らしさ加減を笑わせる」…うーん、ややこしいけれど『ワンダとダイヤと優しい奴ら』や、TVシリーズ『宇宙船レッドドワーフ号』でのリマー役などを見ると、その特徴が顕著に出ていると思う。すました自虐趣味というか、「結局そんな自分が好き」という気持ちの現れというか…。とにかく基本は「自分を笑わせる」であって、他者をバカにすることで生まれる笑いではないと思う。

 それと、前々からフランスと日本の感覚って似てる気がするなぁ…と思っていたけれど、この映画も日本の大味なコメディ映画にどこか似てるように感じた(『病院に行こう』などの悪意を笑いに転化するタイプの作品に)。でもこのタイプの笑いはボケとツッコミがあるようで、上手く機能していないと思う。ボケがピニョンで、ツッコミが主人公という事は、彼は観客の側という事なのか? ツッコミという役割は、観客の代弁者のはずだから。しかしこんな性格の腐ったヤツに自分の代弁者ヅラして欲しくない。じゃあピニョン&主人公でWボケなのか? いずれにせよピニョンはボケに違いないが、主人公のはボケでも何でもなく、単なる「異常に性格の悪い、根性の腐ったヤツ」。こちらからは「なんでやねん」ではなく「お前最低だよ」という言葉しか出てこない。

 もっと主人公を“本当のバカ”として描いていればマシなのだが、するとピニョンのボケが宙に浮いてしまう事になる。つまり「バカを招待してバカにするバカ達がいましたとさ…」という最初のアイデアの時点で笑いとして間違っている。どう見てもピニョンのボケの数々に呆れたり罵倒する主人公は「バカ」としては描かれていない。「バカをバカにする」のは「バカ」ではないのだ。性根の腐ったヤツでしかない。「バカを招待してバカにするクズ」の図式では笑えない。

 なにより「バカ」の基準がまったくピンとこない。自社模型カタログを見せたり、ブーメランが趣味ってだけで招待されるとは…。自分の周囲にも似たような現象を見かける。偏見かも知れないけど、最近の日本人はなぜかツッコミが好きだ。ツッコめばとにかく笑いになるという錯覚が窺える(さま〜ずの三村のあのツッコミとは別の話。「意味分かんなくない?」「超〜ワケわかんないんですけど」というタイプのモノ)。しかし素人なので、ツッコミに愛がない。要するにツッコミ=自分より下に見る、バカにする、となってしまっている。一生懸命やっている要領の悪い人をツッコミ…というか、早い話バカにしてみたりする。そして周りの人も一緒になって笑う。それに快感を覚えて、思い上がった自称「面白い人」は町中でもどこでもその対象を広げていく。冒頭での、バカ不足に悩むメンバー同士が、相手の父親(単にお玉を集めてるだけ)を“自分のバカ”として誘おうとして、「俺の親父は呼ぶな!」と拒否されるシーンが象徴的だ。しまいには「ちょっと変わったクシャミをした」程度で自分自身がバカとして招待されるかもしれないのだ。

 架空の晩餐会に目くじら立てても仕方ないが、自称「笑いのわかる」彼らは、その実ユーモアのカケラもない、一緒にいて最も退屈する連中だ。笑いはコミュニケーション、一方的にバカにする行為が真の笑いな訳がない。似たような知人が電車の車中で、自分の耳元に顔を寄せて向かい側の冴えないオジサンの事を笑おうとしたので、「別におかしくない」とはっきり言ってやった事がある。自分もVOWを読んであきらかにおかしい意図不明な看板や広告をゲラゲラ笑うが、保母さんやどこかのお母さんが一生懸命書いた手書きの何かを単にヘタだからと笑うことはない。

 フー。最後に、98年の映画とは思えないほど古くさく見える。とって付けたようなラストの主人公の改心。それも、ズタズタに傷付いたピニョンが、それでも奥さんが主人公の元に帰るように説得してくれた途端にである。その展開はピニョン的には良かったかもしれないが、そもそもあの奥さんは主人公が友人から小説と一緒に奪った戦利品でしかないし、平気で不倫して罪悪感のかけらもない夫の元に戻るのが正しいはずもない。とにもかくにも悪意にみちみちた自称「コメディ」映画でした!文句なしの1点!終わり!

(評価:★1)

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