[コメント] 眺めのいい部屋(1986/英)
しかし、それにしても奇妙な映画だ。というのは、前半のフィレンツェ・シーンにおいても「光線」がまったく英国的なのだ。光線というのはあるいはもっと漠然と「空気」と云い換えてもよいかもしれないが、特に屋内シーンの場合は、画面をスチル写真として切り取って見せられたらそれがフィレンツェ・シーンのものか英国シーンのものか判別できないほどだ。その印象はこれが英国製作の映画であるという先入観がもたらすものでもなければ、フィレンツェ・シーンにおいても英国人俳優が出演し、また多く英語が話されることから来るものでもないことは確かだ。
もちろん一口にイタリアと云っても、南北に長いその全土にわたって光線の質がまったく同じということはないだろうし、そう云えばたとえば『ベニスに死す』なんかもさほどイタリア的な光線の映画ではなかったような気がする。また、この映画においてもボナム=カーターが血まみれの男を目撃して卒倒する広場シーンは幾分かイタリア的な光線だったように思う。そもそも私が乏しい見聞に基づいて思っている「英国的/イタリア的光線」というものがどれほど普遍的な妥当性を持ったものか怪しいということもある。だが、総じて云えばやはりこのフィレンツェの光線はイタリア的なものではなく、英国的なものであったのではなかろうか。
それは私にとっては「奇妙だな〜」「オモシロイな〜」で済む問題なのだが、半ば無理矢理に作品の評価と結びつけるならば、フィレンツェ・シーンと英国シーンにあってしかるべき画面の質感の変化がない、ということになるだろう。フィレンツェの画面と英国の画面とにおいては統一性よりも対照性こそが目指されるべきだったはずであり、撮影トニー・ピアース=ロバーツの頑張りの方向性が間違っていたというか。
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