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[コメント] 野獣死すべし(1959/日)

史上初めてアプレゲール犯罪の実像に迫った和製ノワールの金字塔。これに比べれば翌年の『悪い奴ほどよく眠る』なんてカス同然。光と影を完璧にコントロールする須川の画面に至福を感じ、容赦ない白坂ニヒリズムに絶句する。
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







大藪の原作に「光クラブ」事件の首謀者を加えたと思しき伊達邦彦の人物像、感情を一切排し合理主義に徹し完全犯罪の遂行を目論む、はリアルである以上にジャーナリスティックで、それは現在ではすっかり失われてしまった映画の輝かしき一側面だ。現在ではバイオレンス描写を徹底することがリアルへの道だと完全に誤解されているがとっとと気づいて欲しいもんだ。

大藪・須川・白坂・仲代は全て当時20代で、特に監督の須川と脚本出演の白坂はラストの変更を求める会社側に談判して「伊達を海外に逃亡せしめた」そうであるが、この辺からも、物語ないし伊達邦彦の存在(=実在)に対する世代ごとの見解の相違が覗える。東野英治郎と小泉博の刑事コンビ(原作には全く登場しない人物)の視点から締めくくられるラストはそういう会社側の意向を汲んだものだと思われるから個人的には全く気にならない。

本作や十年後の深作作品、三十年後の北野作品を単なる暴力映画としてしか見れないようなら映画など観るのを止めたほうがいい、とまでは言わないが、しかし犯罪者の心理ほど不可解で興味深いものってこの世にあるだろうか。いや俺がおかしいのか。

それにしてもこの時期の須川栄三の犯罪映画はどれもこれも信じられないくらい出来がいい。同じ大藪原作を寺山に脚色させた『拳銃よさらば!』や、白坂と再び組んだ池内淳子主演の『けものみち』に於けるモノクロ画面の美しさは映画を観ることの幸福そのものだ。白坂代志夫に関しても同じ東宝、仲代主演で堀川弘通が監督した『青い野獣』、大映で増村保造が監督した『偽大学生』(原作は大江健三郎の未文庫化小説。大江と言えば本作に於ける団令子のアルバイトって明らかに「死者の奢り」をパクったもんですね。ちょっとしたシーンだけど異常なインパクトがあった。)とハズレが一つもない。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)死ぬまでシネマ[*] disjunctive[*]

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