[コメント] フィツカラルド(1982/独)
あゝ幸福な映画だ。こんな映画を見ることができてしまうこと(ということは、こんな映画を撮ることができてしまった、ということ)が、それだけで映画の至福だと思う。
本作のクラウス・キンスキーは存在それ自体が多幸感に溢れている。アギーレと比べても負けず劣らずのパラノイアなのだが、アギーレと異なり、優しさもあり、何を考えているか分かりやすい、まともな造型だ。本作の欠点を強いて上げるなら、このキンスキーの分かりやすさを上げるべきか。嗜好の問題と云えるかもしれないが、『アギーレ 神の怒り』の謎めいた造型の方が映画的だ、という感覚は確かにある。しかし、偏執する対象(簡単に云えば「夢」)のスケールの大きさ、明澄さ、或いはクラウディオ・カルディナーレの笑顔と揺るぎない信頼感もサポートし、エンディングは実に清清しい。こんなレベルの映画は滅多にないと感じる、グレートムービーだ。
有名な船の山越えの部分は、そのゆるやかなスピード感と重量感がいい。映画の画面の運動においては往々にして緩慢さが強さにつながる。
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