[コメント] 1900年(1976/独=仏=伊)
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ドナルド・サザーランドの不気味な存在感!
当時のヨーロッパ世相について深い知識のない私でも、この長さがプラスに作用したのかなりよく理解できたと思う。政治的な映画を多く作っているベルトルッチだが『暗殺の森』などはあまりに小さくまとまっていた為、殆ど理解できなかった。それらに比べ、「1900年」は実に分りやすい。真面目な話、ファシズムについていろいろ知りたくなってきた程だ(今度本でも読んでみよう)。
▼なぜ分りやすいと感じたか?
じっくりと描ききった長さの為だとは先に述べた。だがそれにも増して重要だと思ったのは
「ひたすら人間に焦点を当てている点」
だ。歴史や政治をテーマにした大作、とくれば人間性の薄い、大味な作品になってしまうだろう。ところが「1900年」では時代の大局ではなく、飽くまでも「動いている世界に生きる人々」に目が向いている。歴史を通して人間を見るのではなく、人間を通して歴史を見るのである(重要)。そして農村に生きる人々から世界を見ているのだ。例えば、ドナルド・サザーランドの怪人ぶりからはファシズムの「ドクッドクッ」という不気味な鼓動が聞こえてきて逆に深く恐ろしさを感じた。
恐怖とは人間から伝わってくるものなのだ。監督はそこが分っている。
抽象的な歴史ではなく、具体的な人間。激動の時代に生きなければならなかった人々。第二次大戦自体は描かれていない。広い年代をカバーしているにもかかわらず、鈍重ではなく繊細さが常にある。教科書をなぞるのではなく、人々の感情があったからこそ、理解できたのだと思う。
そもそも2人の少年時代の部分の存在感からして違う。充分に意義のある場面だ。単なる生い立ちを述べるだけでなく、そこだけで作品の本質を提示している。すなわち《地主‐農民》の関係である。それは、少年同士の関係でも、バート・ランカスターとスターリング・ヘイドンとの関係でもみっちりと問題が描かれているのだ。他の作品で同様の効果をあげているものとして『2001年宇宙の旅』(猿の部分)があるだろう。
その他;線路に寝るシーンがラストで再び。『ラストエンペラー』のときもそうだったが、ラストシーンの重要性をよく知っている憎い演出だなあ。
*ちなみに、行きつけのレンタルショップでこの作品のビデオが3年ほどの長きに渡りどこぞの不心得者によって借りられっぱなしになっていた。よほど本作が好きだったためだとしたら、許せるかも。
●ベルトルッチの作品はかなり多く観てきたがこれは1、2を争う傑作だ。隠れた(?)名作に出会った感じがする。ビットリオ・ストラーロとエンニオ・モリコーネは素人目に見ても美しく、そして巧かった!
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