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[コメント] ナッシュビル(1975/米)

アルトマンの人間を見つめる独自の感性が素晴らしい。
太陽と戦慄

入り乱れる大勢の登場人物に、ガンガンかぶりまくる台詞。シーンごとの情報量の多さにはまったく驚嘆する。

シャイニング』でニコルソンの奥さんを演じてたシェリー・デュヴァルが奇天烈なファッションをして突っ立っている。『ザ・フライ』の蝿男ジェフ・ゴールドブラムが変な形のバイクを乗り回し、唐突に手品を披露する。そのこと自体にあんまり意味はなさそうだ。でも、とりあえず興味を惹かれるし、面白い。このような面白い細部が隅々まで詰まっていて、一つの映画を形成している。

劇中何度も出てくる街宣車の演説が示すように、政治的な含意も濃厚にあるのだろう。それでも映画全体を見渡せば、なんともとりとめのないエピソードの羅列によって組み立てられており、作品の核となるものが見出しにくいのではないか。いやしかし、この核となるものがなく、あちこちに拡散していく語り口こそアルトマンの得難い魅力とも言えると思う。

勿論、演出にも特筆すべきものがある。キース・キャラダインが切ないラブソング「I'm easy」を歌う場面の、リリー・トムリンに静かに寄っていくカメラ。病み上がりの女歌手のステージを眼鏡男が見つめるシーンでも同じ手法が使われているが、ズーミングだけでここまで豊かに感情を描けることに驚く。

それにしても、シニカルで突き放したような描写に溢れた映画ではある。歌の下手な娘の扱いなどは、特に容赦のなさを感じさせるが、それでもサディスティックな、あるいは見下しているような印象はない。ウェットでもなく、乾いてるわけでもない、アルトマンの人間を見つめる独自の感性が素晴らしい。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ナム太郎 ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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