[コメント] 地獄に堕ちた勇者ども(1969/伊=独=スイス)
あまりにも中途半端な芸術映画。
この作品はストーリーを云々する作品ではないのかも知れないが、財閥一族の後継争いに親衛隊大佐が絡む陰謀劇という、「俗な」ストーリーである。この「俗な」ストーリーをいかに人間ドラマとして書き込んでいくかが、監督の手腕の見せ所でもある。
本作ではどうだったか。じっくりと描き込まれているようでいて、実は掘り下げの浅い人物描写。ヘルムート・バーガーこそ屈折した性癖を晒していたが、母親への憎しみは唐突な感があり、それが近親相姦まで進むまでの彼の「屈折感」は本作の見所であるはずなのに、ずいぶんと省略されたものだ。それにもまして、それを受け入れてしまう母親のドラマは「無い」。
多くの登場人物にドラマ性があるようでいて浅く、複雑な人間関係のようでいてその実多くの人物はストーリーに絡んではこない。中途半端である。
だからといって、世間で言われている程の「耽美・退廃」を感じて、その世界に脳を任せられるという感覚も持ち得なかった。確かに「金髪・黒の親衛隊制服・赤い腕章」には造形美や色彩美を無条件で感じるが、これはビスコンティが造形したものではなく、歴史の事実に過ぎない。あえて言えば、ナチスが行った行動が後の世に否定されたが為に全てがタブーとなった事実に対し、それを「美しいものは美しい」と描ききった反タブーの精神のみ賞賛される。
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