[コメント] 炎628(1985/露)
銃を手にした少年のタナトスと、子供が欲しいという少女のエロスがせめぎ合う瑞々しい森の描写が妖しくも美しい。不意打ちの爆撃を合図に物語は一気にタナトスに支配され、二人は肉体と精神の苦痛と引き換えに“暴力”の連鎖の顛末を知る。あまりに大きな代償。
占領下にあっても食し、排泄し、眠り、僅かな牛を養うこと。どこか牧歌的な農民たちの生活もまたエロスの必然であり、閃光を引き闇を裂く弾丸や、魔の祝祭として放たれる劫火の炎もまたタナトスの誘惑なのだ。そして、誇り高きパルチザンの“勇気”ですら。人が自らの残虐性を自覚し厭戦に至るまでに、払われなくてはならない犠牲の物量にため息が出る。
映画の終焉、森の奥へと進軍するパルチザンの隊列の背に滲ませた“暴力連鎖の悲しみ”に作者の志の高さをみた。
ナチス・ドイツと戦った大祖国戦争(1941〜45年)の戦勝40周年記念に作られたソビエト映画だそうだ。思えば公開年の1985年は、ゴルバチョフが共産党書記長に就任し、ソ連の政治経済の刷新を掲げペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)を開始した年だ。この映画に潜在する「厭戦」意識もそんな時代の空気の反映だったのかもしれない。
物語の舞台となった白ロシア地方は現在のベラルーシ共和国だ。先日、26年間在位し欧州最後の独裁者と呼ばれるルカシェンコ大統領が再選された。その大統領選の不正疑惑を告発するデモが連日激しさを増していると報じられている。
2020年8月記
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