[コメント] 幼なじみ(1998/仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
この映画に登場する人物は、そのほとんどが善人である。主人公二人の家族(べべの母親と姉はちょっと違うが)はもちろんのこと、金のない二人の面倒を見る食堂の主人然り、若者を応援する屋根裏部屋の大家さん然り、またサラエボのタクシー運ちゃんも然りだ。
そして、彼らはまた同時に社会的弱者でもある。主人公二人の父親は共に肉体労働者で、生活水準は決して高いほうではない。ベベは黒人でマイノリティだし、クリムも妊婦で、普通と同じ労働のできる身体ではないのだ。
その中で、以前からベベに敵意を抱き、レイプ事件の被害者に虚偽の証言をさせた人種差別主義者の警官が、数少ない「悪者」かつ「権力者」として描かれている。しかしこの映画は、彼(=人種差別や偏見)を断罪することを目的とはしていない。それは、この警官が、事件の直前にヒロインがたまたま出くわしたのを最後に、被害者の証言が覆った後ですら、その後二度と登場しないことからも明らかである。
ここには、彼に体現されるような人種差別は現実として存在するもので、それに頑として抵抗したり消し去ったりすることは不可能だが、せめて邪魔されずにいたいという、弱者(マイノリティ)の消極的ながらも切実な思いが浮かんでいる。
一つ残念なのは、無実の罪で投獄されたべべという被害者を守るためなら、彼らは容易に加害者の立場にもなりうる(父親二人が窃盗を働いたり、クリムの母親がレイプ被害者に事件の傷をえぐるような話をしたり)という点である。しかしこれは彼ら自身も認めているし、あくまで弱者にはそれしか取る道がないからだということにしておきたいと思う。
結果、クリム・べべの周囲にいる、弱者ではあるが善良な人々の努力によって、物語は一応ハッピーエンドを迎える。そこには、金や名前に物を言わせて問題を解決する金持ち・権力者には決して味わえないであろう、ささやかな達成感と幸せを見て取ることができる。
最後に一つ余談… サラエボのタクシーの運ちゃんは、私がウイーン留学中に知り合ったクラウスというチェコ人に似ていた。彼もやっぱりいいやつだった。
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