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[コメント] 清作の妻(1965/日)

これは断じて反戦映画などではない。一個の純愛映画である。エゴイズムに充ちた愛など単なる自己愛だ、という人がいるけれどエゴのカケラのない愛だって単なる自己陶酔じゃないか。『清作の妻』見やがれ、と云いたくなる、そんな作品。
町田

江戸川乱歩が「芋虫」を書いとき、左翼の文芸評論家らはこれを「反戦文学の最高傑作」と持て囃し、当の乱歩は大いに迷惑したという。あれはそんなつもりで書いたのではないのだ。同じことが『清作の妻』にも云える。愛の作家増村保造は、「反戦!」「人権!」むやみやたらと吼えまくる老犬新藤兼人の首根っこを見事に押さえ込んだのだ。勿論、若尾文子との二人掛かりで。

知識を積み重ね自己批判を重ねていくと、誰かを「深く愛する」ことが出来なくなる、また出来にくくなる。東大を二度も卒業したインテリの増村は、情念に従って行動する女性の姿を逆光として、自らの醒めた心を描き続けた、一種の「エッセイスト」なのだ、とか云ったら、やっぱり馬鹿にされるのだろうか。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)irodori [*] ぽんしゅう[*]

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