宮崎監督がかつてアニメーターとして高畑監督とともにした時間が、この映画で独立のものとして開花したと言える。この二人は日本のアニメの最も悪い部分に押しつぶされてもおかしくない存在であったはず。『ガンダム』であり、その他商業アニメであり、いずれもアニメという商業性に押しつぶされてしまう存在であったはず。

その意味で徳間文庫（当時）の鈴木プロデューサーの力は大きく、アニメージュで『風の谷のナウシカ』が大きな日本映画（アニメに限らず）の転換であった。

どんな大監督でも、例えばスピルバーグにしても黒澤にしても、同じパターンの演出とプロットが繰り返される。宮崎アニメにおいても当初はそうであった。しかし、ここで興行的な不振を予測しながらもこの映画を作ったことを評価したい。なかなかできることではない。芸術家というのはそういうものだ。同じ経歴と経験を突破したい。破壊と創造とは良く言ったものである。

この映画の素晴らしさは、話の筋ではなく、このディテールの素晴らしさ。こだわりの素晴らしさ。細かい演出。風、月、太陽の光。この映画を映画館で見なかったことを大変後悔している。