[コメント] となりのトトロ(1988/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
お恥ずかしながら、32歳を目前にして初めて観ました。公開当時私は12歳。小学6年生とか中学1年生くらい。「こんな子どもだまし観れるか!」と『スターウォーズ』のオファーを一蹴した三船ばりにとんがって拒否し、そうしてその後、「ジブリヲタきめぇ!」時代がやってきた私にとって、まぁこの歳までトトロを観ずに過ごしてきたのは何もおかしい事ではないんですが、ある意味この歳に初見出来た事は私にとって良かったのかなと思えました。これは完全に大人のための作品だと思ったからです。
子どもがこの映画が大好きで、見まくるという話はよく聞きますが、これは憧憬映画ではなく、懐古映画だと私は思いました。舞台となった田舎の風景は、今の日本でもある程度似通ったものは見られるし、まぁ実際今私が住んでいるところもこの田舎町とそう大差ありません。時代が違うので車も走るしテレビもある、携帯だってあるよっていう差はありますが、昼は左から油蝉、右から蜩の声を聞き、夜はカエルの合唱が響く、有り余るほどの広大な土地で、こんなに沢山作って店でも開くのか?ってくらい大量の野菜をうちのばーさんが育て、母親が蚊に刺されただの日焼けしただのブーブー言いながらその日食べる分だけ小さなカゴに収穫してくる。そこからきゅうりを1本ちょろまかし軽く塩もみしてかぶりつく私と妹(ちょおうまい)。私にとってはこういう風景は超日常で、映画で改めて見たからって感動したりする事もない。言ってみれば私は生まれた時からそこにいたカンタのようなものであり、都会から越してきたばかりで見るもの全てが新鮮に映るサツキとメイではない。
でもだからこそ、沁みるものがあったというのも確かなんです。今の子どもは分かりませんけど、少なくとも私の幼い頃はリアルで軒下覗いたりしてたし、今ではすっかり忘れていた幼い頃の記憶がまざまざと蘇ってきたんだもの。子どもはあえて映画でこういうものを見なくても、見えてる子は見えてんじゃないのかな?アレとかアレとかがさ。だからこれはアレとかアレを見ようとしなくなった大人が幼い時代を思い出す為の映画じゃないかと思ったんです。
そして同時に、自分が親になった時にも子どもの気持ちを忘れるなという映画じゃないかと思う。現に私が一番びっくりしたのは両親の存在。特に父親なんですけど。彼は汚いことろに潜り込んだり訳の分からない茂みに入って泥だらけになる子どもたちを叱らない。むしろ一緒になってついて行ったりする。私だったら危ないからやめなさいとか、汚いからよしなさいとか、そんな事ばかり言う母親になってると思う。それも必要だとは思う。子どもを危険から守るのは親の義務だ。でも親は二人いるんだ。なんで二人いるんだ?上の相反する事をそれぞれが教える為か!?
それから、例えば大きな木の根元にあった穴がなくなってしまったシーン。サツキとメイが「また会えるかな?」と父親に聞く。私は絶対「いい子にしてたらね」って言うと思ったし、自分ならそう言う。でもこのお父さんは「運が良ければね」と言った。・・・なんたる父親!私はあの良質な挿入歌の効果もあって、口をわなわな震わせて泣いてしまった。バスで騒ぐ子に「運転手さんに怒られるよ」という母親はよくいると思う。何故自分が叱ろうとしないんだ、なんで汚れの役を運転手さんになすりつけるんだ。それと同じ。トトロが見たかったらいい子にしてろ。・・・トトロを餌にするなと。いい子にしてればいい事あるよってのも間違いじゃないと思うし、30過ぎた今も私はその精神で日々過ごしたいと思っている。でもなんだ。トトロが見たければいい子にしていろ、やっぱどことなく他力本願に響く。それを言わなかった父親がとても偉大に思えたし、こういう男と結婚したいと心底思った。
やっぱこれは大人が見るべき映画だと私は思います。幼かった頃の自分を思い出して、子を育てなさいと。そう言われたような気がしてなりません。素晴らしい!やっぱりこれは昼間に軒下覗いて遊ぶ時間がなくなってしまった大人のための映画だ!
それにしても北林谷栄さんは天才か!永遠のおばあちゃん万歳!
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08.10.03 記
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