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[コメント] となりのトトロ(1988/日)

私の育った家のそばにはマーモーが棲んでいました。
ぽんしゅう

最寄の駅から山の中腹にある神社まで続く長い参道。お土産物屋が並ぶそのにぎやかな表通りから脇に延びる小道を、百メートルほど入ったところに私の育った家がありました。

小道の右側は昼でも暗い竹薮が、左側には熊笹におおわれた低い土手があり、その向こう側の小さな用水路から澄んだ水音が聞こえてきました。その水は美しく澄み、春には花の色を映し、夏の夜は蛍の火が舞う、そんな昭和三十年代には日本のどこにでも見られた風景の中で私は育ちました。

その小道のちょうど半ばあたり、熊笹の中に朽ちかけた一軒の木造の小屋にマーモーは棲んでいました。全身は黒く長い毛でおおわれ、それは針金のように硬い。剛毛の奥に赤く光る切れ長の目。夜になると辺りを徘徊し、親の言いつけを守らず夜更かしをしている子供のところに現れるのです。マーモーの赤い目を見たとたん、子供は石のように動けなくなり、バックリと耳まで裂けた口で飲み込まれてしまうのだそうです。

この話に私と妹、そして弟の三人は震え上がったものでした。今はもう木造の小屋はありません。用水路に水は流れていません。そしてマーモーの話を聞かせてくれた父も、もうこの世にはいません。

今でも兄弟三人が実家に集まると決まってマーモーの話になります。いつのまにかマーモーは私たち三人の心の中に棲みかを移したようです。そして、私達兄弟の子供たちの心の中にもまた棲みつき始めたようです。・・・・心の伝播。

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