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[コメント] 光の旅人 KーPAX(2001/米=独)

あえて派手にしないということについて。
イライザー7

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







なんて地味なつくり・・・。スーっと見終わったあと、「あれ、終わった?」と思わせる。かろうじてビッグネームの俳優を2人使っているだけで、およそストーリーや小物の利かせ方に派手さがない。

もちろん結末の解釈は二通りあるわけなんだけれど、一方の(より地味な方の)解釈に立てば、精神異常ではあるものの無害な男が保護され、精神医によって彼の悲しい過去がわかる、というそれだけのお話。もちろんそこに、もう一方の解釈に立ったときの含みがあり、そこがストーリーの利かせ所になっているわけだけど、それでもここには、大きな事件も(過去の殺人事件はあるけど、回想である分インパクトは少ない)、恋愛のいざこざも、いわゆるケレン味のある演出も、存在しない。

もちろん原作ありの脚本だからそうなんだけど、でも、ハリウッド的に考えると、もっと派手にする手段はあったはず。例えば精神科医を女性にする(ほのかな恋?)、主人公に超人的な活躍をさせる(世間を騒がす?)・・・。

しかし、そう直すことのあまりの簡単さを思えばわかる。この映画は、そういうことを排した所で成立しているのだと。それがこの映画のよさだと。

主人公がいることで周りは変わる。ただし、それは主人公が直接触れあえるレベルの範囲に限定される。個人的に話をし、約束できる、ごく狭い範囲に。それがこの映画が単なるホラ話にならないキメになっている。

人が人によって変わる、というのは、あらゆるお話の根本だ。それが恋愛を通してだったりするとドラマチックだけど、そうでないもの(例えば友情とかね)を通して人が美しく変わっていくのを見るのが好きだ。友情のもっと手前のほのかなものによって人が変われたら、それはもっと美しい。私が子供向け名作の映画化作品が好きなのもそこだと思う。『赤毛のアン』も『秘密の花園』も、主人公の存在で周りの大人が変わってゆく。この映画は、そんなお話だと思う。

そして、そんなお話にとどめて、派手な演出やエピソードを求めなかった、制作側に感謝。

(評価:★4)

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