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[コメント] 戦場のピアニスト(2002/英=独=仏=ポーランド)

この映画の前では、わたしの言葉は力を失う。完璧な映画的ストーリーテリング。
カフカのすあま

ただ、そのとき、そこに生まれたから、その人種に生まれたからというだけで、民族浄化の対象とされ、生きるためには「逃げる」ことを余儀なくされた彼が、過酷な日々をやりすごし、現実をうけいれ、ただただ「生き残ろう」とする姿に人間と歴史の残酷さと不条理を感じつつ、同時に人のもつ力強さを再認識する。

歴史のなかでは人間は非力すぎる存在だ。ひとりの人間が歴史を変えることはできない。だから、いまから振り返ってみれば、彼のとった道のりはまるで、ダイスを振るたびに決められた目を出さねばならぬようなイノチガケの大博打。一度でもしくじると命はない。こわーいヤーさんたちに取り囲まれた一匹の無力な羊となる数年間の生き地獄。

それでも彼は生き延びようとする。「なぜ」という問いなど考えるひまもなく。

栄養不足で折れ曲がり固まった指をひらき、鍵盤に触れる。その瞬間からうそのように自由に動くその指に、なんと表現したらよいのか途方にくれるほどの、人間が持つことが許された気高さと美しさ、力強さを感じた。

(評価:★5)

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