[コメント] ラスト サムライ(2003/米=ニュージーランド=日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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映画としては、俳優もそれぞれの持ち味を生かしてよい演技をしていたと思うし、殺陣も含めてアクションシーンは悪くない。
特に最後の合戦シーンは、いかにもハリウッドの大作らしく、ケチくさい特撮に頼らず、堂々とたくさんのエキストラをそろえて、スクリーンに引き込まれる、迫力あるシーンの連続だった。砲撃の中を進む騎馬隊が、横列の陣構えに突っ込み蹴散らしながら突撃するシーンなんて、日本の時代劇でもそうお目にかかれないシーンだけに満足させるものがあった。
ただ、なんというかこの、時代考証以前に、史実にもとづいてないというか、どう考えてもこれは日本じゃないでしょう、というのが正直なところ。むしろ、日本をモデルにしたおとぎ話にしたほうがよかったように思える。
特に違和感があるのは、「天皇」と「大村」と「勝元」の関係。どう考えてもこれは明治政府の枠組みにはあてはまらない。そもそも明治初期において「天皇」がこの映画のような役割を果たすようなことは基本的にない。
またアメリカと日本政府の関係もまったく異なる。この当時の日本は幕府がアメリカ初め欧州諸国と結んだ不平等条約によって、散々な目にあわされ、しかもその不平等条約の解消は1895年くらいにならないとできなかった。だから、当時の日本は、最後のシーンのように「天皇」が(そもそも「天皇」はそんなことはしないが)アメリカにキッパリものを言うとか言わないとかいう次元にすらなっていなかった。
あまりに現実の日本の明治初期の姿と違いすぎるのである。衣装とか風俗とかの時代考証はさほどずれているとは思わなかったが、少なくとも日本の明治初期は、この映画で描かれているような社会構造というか政治体制では、ぜんぜんなかったのではないか。
闘いにあっては名誉を第一にするとか、そういう思想みたいなものをとりあげ、美化したいというのはわからんでもないし、それが映画のテーマになってもおかしくないのだが、少なくとも、この映画の中で描かれているそれを「武士道」だとか、「侍」だとか言われると、ちょっと違うんじゃない、と言わずにはおれない。
ひょっとして、昔の「マカロニ・ウエスタン」を見たアメリカ人もこういう感想を抱いたんじゃないだろうか?「あんなガンマンいないよ」とか「カウボーイがあんなことするかあ?」とか。
たまに中世ヨーロッパをモデルにしたような冒険ファンタジーで、まったくの架空の国などを舞台にしたものがある。架空の世界の話ではあるとはいえ、やはり中世ヨーロッパの世界がモデルになっているから、封建制とか王制とか、君主への忠誠とか、騎士道とか、剣士とかが出てきて、それぞれなりに、中世ヨーロッパのそれをモデルにしている。
ただ、モデルにしているだけだから、実際のそれらとその架空の世界の中のそれらが違っていたって問題はないわけだ。この話も、そういうものにしてしまった方が、よっぽどかすっきり見ることができた。
渡辺謙がこの映画で2003年度のゴールデングローブ賞助演男優賞にノミネートされ、早くもアカデミーもという声もあるが、確かに、渡辺謙は、渋い雰囲気を出して、時代から消え去るものの華を感じさせた。真田広之もがんばっていたし、日本の俳優たちの実力のほどを良く見せた映画といっても言い過ぎではない。
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