[コメント] 黄泉がえり(2002/日)
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それにしても豪華なキャストです。田辺誠一をほんのちょい役で使うなんて、贅沢です。
個人的には、山本圭壱のキャラクターが一番です。人間は容姿がすべてじゃない、ということを痛感しました。石田ゆり子を一途に想う気持ちが痛いほど伝わってきます。自分からは決して好きだとかは言わない。いや、言えない。けれども店を閉めて「ビールでも飲もっか」という彼女に、彼女がいるから仕事が楽しい、というようなことをさりげなく言う。もうその始めの登場シーンひとつで彼の魅力に、惹きこまれました。
そして、そんな時に彼女の死んだはずの夫が、現れます。彼女にとってはある意味喜ばしいことには違いないし、彼も喜んであげなくちゃいけない。けれども素直に喜べないし、はっきり言って絶対にそんなことがあってはならないと、彼は思うわけです。そりゃそうです。僕はその時、すでに山本圭壱と同化していましたから、夫がヌボーっと暗闇に立っているのを見たときは哀川翔、あんたが戻ってきたらあかん!と、本気で思いました。山本圭壱の、その複雑な心境は、見ているこっちが苦しくなってきました。しかし、付け加えれば最後のほうは哀川翔の苦悩を思えば、彼にも大いに共感し、泣けました。ですから、『sawa38』さんのコメントにも、賛成です。
山本圭壱の死んだ兄も、黄泉がえってくるのですが、彼との最後のキャッチボールは、会話がなくても、彼の感情のすべてが溢れ出してくる、静かだけれども感動的な場面でした。
また、草なぎ剛が彼のところにやってくると、山本圭壱がひょいと立ち上がって礼をします。そして立ち去るときも、立ち上がって礼をします。そのさりげないしぐさに、彼の人柄の良さ、礼儀正しさが、実によく出ているいい場面でした。それを見て、ますます彼のことを応援したくなりました。
一番泣けた場面は田中邦衛の妻が黄泉がえってきて、娘と対面する場面。
自分の命と引き換えに娘を産んだ彼女。娘は娘で、自分の身を犠牲にして生んでくれた母親の事を父から聞いて、「生んでくれてありがとう」と言います。しゃべれなかった母親に感化されて「手話」を職業に選んだ、と彼女は言います。親子でありながら、お互いに顔を見たこともない二人の対面。もう涙なくしては見れない場面でした。
いじめで自殺した中学生のエピソードも短いながら印象的です。彼を黄泉がえらせたのは、彼のことを密かに思っていた少女だった…。もうこれだけで甘酸っぱい気持ちにさせてくれるのですが、その少女が長澤まさみとくれば、言うことないわけです。 難を言えば、この二人の初々しい交流をもう少しじっくりと描いてほしかったです。と、いうか、長澤まさみをもっと見ていたかった、というのが本当のところです。はい。
こういったそれぞれのエピソードが本当に魅力でした。ですから、主演であるはずの草なぎ剛が霞んでみえました。特に前半は。彼はいったい何のために出ているんだろう?という疑問が生じたのも事実です。単にこの黄泉がえりの謎を解く先導役でしかないのかな?と。
しかし、後半、実は竹内結子が死んでいた、という事実を提示されるに及び、頭をガツンと殴られたような衝撃を受けました。伏線は確かにあって、普通の人なら気づくはずなのですが、僕はそこに全く気がつきませんでした。ですから、全く予想していなかった事だけに、これには驚くと同時に、血の気が引きました。
そして俄然草なぎ剛の内面心理にスポットが当てられて、彼がはじめて血肉の通った人間として舞台に立つ。そしてようやく主演二人の本舞台へとなだれ込んでいきます。この展開にはやられました。
大詰めの柴崎コウのステージは、確かに緊迫してきた物語の流れを止めてしまいかねない「障壁」とも感じられました。しかし、彼女の歌が、物語にごく自然に溶け込んで、登場人物たちの「哀しみ」「苦しみ」をうまく表現していて、僕はむしろ、この場面は肯定したいです。
いくつもの思いの詰まった滴が、より透明度を増して、美しく澄み渡って、天空へと昇華していく、そんなイメージを抱きました。
竹内結子の最後の微妙な表情は絶妙でした。彼女の演技力の凄さを見せ付けてくれました。彼女の出演作を本格的に見たのは、これが最初ですが、いい女優だと感じました。
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