[コメント] キッズ・リターン Kids Return(1996/日)
嫌悪感を催すだけのクズ野郎どもに寄った局所から見せ、引いて行けば青春群像絵画の全体像が見え始める前半は秀逸。弱者をいたぶる理不尽な奴らがさらに理不尽な奴らにいたぶられる展開は一見ありがちだが、“弱い者達が、夕暮れ、さらに弱いものを叩き、その音が響き渡れば、ブルースは加速して行く”というトレイン・トレインの歌詞を逆行するかのような編集を以て新鮮に見せてくれる。
青春群像劇として積極的なメッセージを持っており、撮りたいことがいつになくはっきりしているので、一般受けしたのも頷ける。タケシと年代や境遇を共有している人には、省略は正常に機能し、これで十分伝わるのかもしれない。
でも世代がずれている者にしてみれば、破綻だらけに見える。タケシ独特の因数分解=省略法がやっつけにしか見えない。
寓話を装おっている節があるし、不良どもが妙に可愛げのある奴らばかりだとしても、時間軸の推移が適当でも、リアリズムからケチをつける気はない。問題はその寓話としてのバランスだ。
寓話的な扱いで出しておいたヤクザが突然リアルに振る舞いだすのもまあ良しとしよう。問題は主役二人、安藤政信のボクシングシーンなんかそれなりにリアルにやってるもんだから、彼にボクサーとしてのリアリティーが生まれちゃっている。そうすると今度は、下手にリアルなもんだから、駄目になっていく展開にどうにも説得力がなくなる。いくらアニキ分がいないと駄目な性格のやつだからって、あんな駄目男の言うこと真に受けてまんまと駄目になっていくか? 自尊心も自立心も無さ過ぎだ。一方金子賢は反対で、ダンビラで焼きいれられるシーンなど潰されていく所は酷くリアルなのに、それまでがお笑いかと思うぐらい唐突。見終わった後でも、本気で撮っていたのか疑いたくなるぐらい出世に説得力がない。いくらバカだからって、三分でシマもらった高校生がまた三分で今度は組長に牙をむくか。おそろしい変身ぶり。ウルトラマンじゃねえっつうの。
始まりと終わりありきの映画で、過程をとことん記号化し、後はメッセージって事なんでしょうが、なめくさってます。今現在対象年齢である者にとっちゃ、始まりも終わりもどうだっていい、過程こそ記号化されちゃあ困るんです。所詮もう痛みを通り越した大人の高いところからの視線だったのであり、温かく始めさせたのはいいが、途中で見守るのに飽きちゃって、終わらせなきゃならんので強引に終わらせたって感じ。あんなふうに彼らを潰せちゃうのは、キャラクター=今現在青春を送っている者達への等身大の愛情が皆無である証拠です。同じく過去と笑い飛ばせる人にはいいのかもしれませんが、こちとらおっさんのノスタルジーに付き合ってやる義理はございません。
『ソナチネ』の大人の皮着た少年の遊戯はいくらでも見ていられる。この映画みたいにその年代を器として借りてくると、逆にうそ臭くなる。
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