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[コメント] 夏時間の庭(2008/仏)

家族といえどもその構成員一人一人が孤立して在ることの不可避性が、後のカットが前のカットを追い出していくような切り詰め気味の編集(動きは見事に繋がっている!)と色彩設計(コバルトの効いた緑色)で卓抜に表現されている。感傷が溢れすぎないのが良い。
ジェリー

露骨に家族の相克を描くのではなく遺産分けというデリケートな状況を設定した脚本上の工夫が気持ちよい。主題への接近がより明確になってくる。役者にオーバーな演技をさせてはテーマが観客から離れてしまうことを監督は心得ている。

長兄の家への固執の根本動機が描かれていない点惜しいと見る人もいるかもしれないが、それが示されたからといって、長兄の固執に納得感が増すとも思えない。どう振舞ったか、は必要だから描いても、その振る舞いの根拠を説明すればするほど、映画は混濁してしまう。そういう分別に沿った当たり前の割り切りが、好ましくも堅固に全エピソードに行き渡っている。

三人の兄弟の誰かが重要なとりまとめを行うことで物語をしめくくらず、それまで特に主要とも見なされなかった登場人物の涙のシーンで果たされた終結部にも意表を衝かれ大変感心した。家族が少しづつそれぞれ疎遠になっていく状況がさらにクリアになったし、時の無常性や新しい世代が社会の中で主導権を取っていくことまで簡潔に内包しえたからだ。

惜しまれたのは、五官全体を快く揺さぶるジョン・フォード的な配慮があれば、さらに作品世界への入り口が豊かに広がっていったはずだということ。たとえば、この母の住む郊外の家の夏の庭に風が吹いただろうか。あるいは、頻繁に登場する食事シーンの前に食材を調理する火や煙が立ち昇るショットがあっただろうか。数秒でも良いそうした嗅覚や聴覚に刺激を与えるカットの存在が映画の細部を生き生きと輝かせるのだが。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)moot 煽尼采[*] 3819695[*]

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