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[コメント] 日本誕生(1959/日)

水も滴る司葉子。超豪華娯楽大作の、けして見失ってはいけない主軸について。
町田

既知の結末へと向かうお馴染み(あくまで公開当時に於いての話、現代の平均的な若者はドラクエで聞きかじった程度であろうと思われる)の物語を如何に演出するか、という問題に於いて巨匠・稲垣とその脚本家たちが選んだ方法論は、大筋で間違っていない。

記紀神話を映画化するに、列伝体(群像劇)にするでも、史伝体(時系列)にするでもなく、最も人気のあるヤマトタケルの悲劇を軸に、神代の有名エピソードを補足的に挿入する、ドラマの全てを三船敏郎というたった一人の、しかし唯一無二の個性の双肩に背負わせる、というそれは安直なようでいて、その実、コロンブスの卵的英断であり、驚嘆に値すべき大博打であったはずだ。

(三船がその期待に充分応えていたか否かはともかくとして、本作は興行的には大ヒットを記録した。同年二位の『隠し砦の三悪人』の二倍の興収を得たとのこと。つまり企画者が掴んだのは当り馬券だったということだ。東野や杉田、伊藤熹朔に伊福部と、同じようなスタッフで模作された後の大映産スペクタルが、周辺的なことに気を執られる余り羅列的で求心性に欠けるものに終わってしまったこと、興行的にもそれほどの成果を挙げられなかったこと想起されたし。)

で、中身であるが、これはまずまずと云えよう。一言で云えば、後半に行くほどよくなる映画だ。前半の、茶番染みた描写をさえ我慢すれば、三船と司葉子(オトタチバナ)に拠って演ぜられる悲恋のドラマは、中々の盛り上がりを見せる。成果とはこれだ。親子の相克や、クマソタケルとの友情、香川京子の失恋などが如何に薄っぺらいものだとしても、最期でこれだけの情感、無情感を描出できれば、長尺映画としては成功の部類だろう。ヤマトタケルが白鷺となって天上に帰還する件を、今か今か心待ちに愉しむことが出来、本望である。

周辺エピソードについて。アマテラスに原節子、スサノオに三船はぴったりとして、天岩戸のシーンに於ける、喜劇俳優の大判振舞は、些か企画倒れであった。アメノウズメ(乙羽信子:彼女と識別出来ぬほどの成りきりぶりだった)に絡む、沢村いき雄の天然泥酔演技はいつもながら見応え充分であったが、エノケン、のり平らを無駄に映し過ぎたきらいがある。監督の過剰なサービス精神がファンの心をもシラケさせてしまった。ヤマタノオロチのエピソードでは、円谷英二の力量が過不足なく発揮されており、臨場感を満喫した。クシナダヒメ(上原美佐)との後日談も描いて欲しかったのだが、それは欲張り過ぎだろう。むしろ、これが省略されていることに意味を見出すべきかも知れない。

*神名・人名は古事記と日本書紀とで表記が異なり紛らわしいので全てカナ表記とした。語尾のミコトも煩わしいので省略。因みに個人的には古事記の表記の方に馴染みがある。勅撰の日本書紀の恭しい表記はどうも苦手。ヤマトタケルなら日本武尊よりは、倭健、スサノオも素戔嗚尊よりは須佐之男が好みだ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)TOMIMORI[*] ジョー・チップ 荒馬大介[*]

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