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[コメント] 大日本人(2007/日)

伝統という過去からの連続性を断ち切られ、ありがた迷惑と化した宙ぶらりんの正義を生きる男の悲哀は、極めて政治的な意味をはらみながらまったく政治的に見えない。きっと、松本の生来の生真面目な無邪気さの結果だろう。これはこれで「今現在」に溢れた映画だ。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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次々に現れる鬼や怪物に見立てられた外国人レスラーに立ち向かうことで、かつて日本中の喝采を浴びたプロレスになぞらえられた大日本人の世界と系譜とは、大佐藤(松本人志)を配下に置く防衛庁の辛酸そのものともとれる。しかし、大佐藤は裸一貫、こん棒片手に一対一で敵に立ち向かうのである。松本はおそらく暴力そのものを否定はしないのだろう。しかし、彼がよしとする限度はこん棒なのだ。

もうひとつ松本が否定する暴力のカタチが描かれる。「いじめ」の悲惨さと「アメリカ」の無謀さを髣髴とさせる、「実写」と称する戦隊ものを模した実写ではないシークエンス。この対決シーンの殺伐としたむなしさは、無自覚にふるわれる暴力の醜さを見事に体現していた。この、一見ギャグに見立てられたシーンを観て平気で笑える者がこそが、まんまと松本の冷笑にさらされる愚か者なのだ。

もし、この作品に何らかの思想性と方向性が見えたとしたら、それはかなり反動的で危険な映画になっていただろう。幸か不幸か、それは私には感じられなかった。見えたのは松本人志の生真面目で無邪気な表現欲だけだ。いずれにしろ、次回作をまた観て見たいと思わせる映画作家の誕生には違いない。

蛇足ながら、一目瞭然これはコメディ映画などではない。どこの誰がそんなことを言ったのやら。困ったものだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)奈良鹿男 おーい粗茶[*] まりな[*] IN4MATION[*] bravoking[*] hk[*] けにろん[*]

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