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[コメント] マルホランド・ドライブ(2001/米=仏)

 あのエンターテイナーが一言、「火よ、我と共に歩め」と言って欲しいと思ったのは、私だけではない。と…思うんだけどなあ。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この作品は元々テレビシリーズを目指して作られていたそうだが、テレビ側からNO!を言い渡されてしまった。内容的にショッキングだし、わからな過ぎる。と言うのが理由だったらしい。それでお蔵入り寸前をプロデューサーが映画として救った作品。

 確かにこの映画、前半部分はまさしくテレビ調で、複数の主役級の人間が登場し、それぞれが不思議な体験をしてその意味を探ろうとする。そこで非常に多くの伏線が張られ、これらの謎がどう解けるのか、このバラバラの主人公達がどうつながっていくのか。その辺非常に期待させてくれた。と言うより、この監督のことだから、謎のいくつかは謎のままだろう。と思わないでもなかったが…

 そして記憶喪失のリタが持っていた青い鍵。この使い方が分かったときから物語は様相を一気に変える。以降はほぼ完全に悪夢の世界。前半に出てきたキャラクターは全員名前と立場、性格まで変わり、ドロドロの人間関係の様相を呈す。当然前半部分の伏線がまるで活かされることなく、ただ前半とは違った人物として登場するに過ぎない。言ってしまえば無茶苦茶だ。謎のいくつか、どころではない。伏線やら謎やら、全て無視されてるじゃないか。

 だが、それだけ無茶苦茶やっていて、くだらないのか、と言われたら、全然そんなことはない。確かに無茶苦茶面白い。これがリンチ監督の面白いところなのかも知れないな。この監督に関しては、無茶、力業、(伏線の)無視、それら全てが許されてしまう気がしてしまう。この辺がカルト監督と言われる部分なんだろうけどね。

 敢えて理由を考えてみると、監督の作品は、闇を効果的に用いている事。そこにあるんじゃないかな?微妙に「怖さ」とは異なる、濃密な、ドロドロした闇。それが描写方法によっては人間の外側を押し包むものになったり、人間の内側から突き上げるものになったりしている。だがいずれにせよ、監督はひたすら“闇”を描いている。そこの巧さが、逆に不条理な部分を良しとしているのかも知れない。

 まさに闇。冒頭の夜のマルホランド・ドライブ。夜の捜索。ダイアナの部屋のむせかえる闇の描写。夜のベッドでの二人。暗闇の中で演じられるショー。そして漆黒のボックスの中。以降はいくら日が照っていても、明るくても全てが澱んだ闇の中にある。見事な闇、闇、闇の描写。

 心情的には★5を上げたいところだけど、やっぱりもっと設定を大切にして欲しい。と言うことで★4。

(評価:★4)

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