コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] パプリカ(2006/日)

ミドルエイジの箱庭で(BGMはムーンライダースのDon't Trust Over Thirtyあたりで)。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







近年のアニメーション界の中における作品の特異性。それは映像云々ということよりも、それぞれの作品の芯の部分には必ずオヤジがいる、ということではないだろうか。しかも、『千年女優』『東京ゴッドファーザー』『妄想代理人』などを思い返せば、そこにはヒゲ面のいかつい顔したオヤジが、大差のない印象で現れる。まるで一人のオヤジが、それぞれの作品を自由に行き来しているかのような錯覚さえ覚える。

まあヒトコトで言えばオヤジテイスト。ただヒトコトだけでは語弊が生まれるので、ある程度の説明を要さねばならないだろう。別に加齢臭漂うということでもなく、イマドキのちょいワルナントカでもなく、ムーンライダース世代なら聞き覚えのある「不良中年」、これが一番しっくりくる。その「不良中年」という言葉は、外面的なスタイルを形容するものではなく、あくまでも精神面のこと、社会がその年齢に対して期待するモノへのあがき、みたいなものか。

たしかにあの男の見た目は加齢臭漂っているし、呑んで酔い潰れてクダもまくけど、何かの弾みで現実の枷が外された時、いわゆる「大人の男」にはそぐわない未成熟な部分をさらけ出す。ただ、「いくつになっても若いんだゼ!」という臆面もない表明ではなく、そのあがきにはコンプレックスや自嘲が多分に含まれている。今監督が作品の中に自らを投影したものがあのオヤジたちだとすれば、その姿が未成熟さとはかけ離れたいかつい風貌をしているのは、ひとえに自嘲の表れではないだろうか。

そしてこの『パプリカ』という作品。原作未読なので何とも言えないのだが、主人公はパプリカでもなく巨体をゆるがすオタクくんでもなく、実は、いや、やはりあのオヤジなのではないだろうか。これはもう、ラストにあえてあのオヤジを持ってきて話を締めていることが主な根拠なのだが。あたかもあのPCを閉じると同時に、この妄想に満ちた世界も終わりを告げるかのようなラストではないか。

全てはあのオヤジの目を通した世界、そして実は、かわいい女の子もオタクな青年も屈折した性欲も何もかもが、あのオヤジ(=監督)の中に存在するものなのかもしれない。まあ確かに、創作者は自らの中にあるものを描くのは当たり前なのだが、普通わざわざその創作者の分身を作品の中に登場させはしないだろう。この辺りに並外れた自意識の強さを感じる。そして、それが何より自分には面白い。

とはいえ、夢の世界のあれこれがどうにも小賢しい。シュールでナンセンスな世界を描いてるようで、何気に文脈から逃れられていないといえばいいのか、語呂の良い言葉の洪水には、かえって考えに考え抜かれた周到さしか感じられない。でも嫌いにはなれない。成熟しきれない中年男の憂鬱と若年への束の間の回帰。成熟しきれない何かを飼い殺しながら、強がりつつオヤジは毎日を生きるのだね。漠然とした憂鬱と不安を抱えながら(ちなみに自分は30代後半です)。

(2007/7/15)

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)Orpheus けにろん[*] 夢ギドラ 水那岐[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。