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[コメント] 愛怨峡(1937/日)

ネタバレになるかもしれないので、あえてreviewに書きますが→
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







あまりに劇的な変身振り。ボーっと見てたら一瞬何が起こったのか分からず、開いた口が塞がりませんでしたよ。この女優さんのことは良く知りませんが、おそらく溝口氏の泣きを見るシゴきの賜なんだろうなぁ・・・。

「復活」をヒントに書かれた脚本云々ということだが、フタを開ければいかにも溝口映画的世界。男性社会を背景として描かれた、強いというよりは「強くならざるを得ない」ヒロイン像。そんな彼女を通して見えてくるのは、女性というものが何の犠牲になり、何に縛られているのか、ということ。

しかしここでクローズアップされる「強さ」は、抜き差しならない状況での開き直りからくるそれ以上に、わが子や愛する男のために我が身を振り返らずに惚れ込むことができる強さ、ではないだろうか。確かにあまりに世知辛い世界とはいえ、この映画にはある種の明るさもある。血筋、家柄、財産、世間体といった表向きの関係性の対極に描かれる、他人同士の絆。のっぴきならないトコロまで追い込まれるほどに、強くつながることのできる男と女。この世界は溝口映画で幾度となく繰り返され、後の『近松物語』という一つの結晶体に至る。

それにしても惜しむらくは保存状態の悪さ。欠落している部分も明らかに分かってしまう。ただ、残された映像には対象を凝視するような緊張が漲っているシーンも少なくない。個人的には、わが子との別れのシーンと一座の旅の道のりのシーンが特に印象に残る。それと、隠居した父親が押しかけるシーンの、あの無言の緊張感。素晴らしい。

(2007/3/16)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)寒山拾得[*] ゑぎ[*]

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