コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] あの夏、いちばん静かな海。(1991/日)

凄く普通の話の中心人物から声を取り払い、静かな男女の話を“一番”静かに丹念に描いた、総天然色一のサイレント映画。典型である「手話」に帰依しないで作品を完成する精神、コペルニクス的コロンブスの卵型発想を矢継ぎ早に出して社会を逆説的に描く北野武監督は凄い。
ジャイアント白田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







“説明”を限界まで削ぎ、音と映像と演出を際だたせた度胸。それは超移ろいやすい飽きやすい視聴者相手のテレビ業界と対峙して、そこからだされる波を巧く掴み、巧く乗れたから培われた度胸だと思う。そして、その度胸は昨今の説明の説明の為のテロップが画面上に氾濫するテレビ番組の映像に対しての静かなる決闘に繋がる。才能とはこういうことを言うのだ。そこに普通に存在してしまっている固定観念を突き動かすアイデアを打ち出す北野武、才能豊富につき要注意。

【この作品の前とその後に出される作品】

北野武監督の凄い所は、猿真似を排しオリジナリティを見いだす作業を止めないところだと思う。芯は単純なのに、単純だからこそ圧倒的な迫力。凡人や、平均点に毛が生えた人間とはやっぱ違う。過去に全国模試(数学)で2位という下地があるにせよ、このオリジナリティの探求は、手話を出さない点を見ても明らかのように日本人監督のなかでは突出したモノがあると言えよう。

「アナタが知らないだけで、他の日本人監督もオリジナリティありますよ。」と意見してくる人がいるかもしれないが、他の監督は十中八九自分の過去の自分自身の作品で使ったネタとパターンを直球だとヤバイので、少し加工して使い作品を作り続ける傾向にある。だが北野武監督は自分の過去を否定し、そこから再び自分を作り上げて、オリジナリティと否定できない普遍概念を探求する。

サーフィン、静かな男女と、それを取り巻く人間達の否定と、改心と革新。全ての登場人物の表情を無駄にせず、何気ない言葉一つ、些細な小道具一つであっても、作品内でそれら全てに根をはわせさせることに挑んだ心優しき魂。終わりと同時に心に温もりを感じた。

2003/3/21

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] 町田[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。