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[コメント] ヨコハマメリー(2005/日)

横浜におけるメリーさんという存在。これを「都市伝説」と言う向きもあるかもしれない。だが、彼女の徹底した美意識・凡人には到底耐え切れない孤独・そして知られざる周囲の人々の僅かながらも暖かい支援と眼差しを目の当たりにする鑑賞後は、その一言で括ってしまうにはあまりにも現実的でありしっかりと根幹のあるものだった。
クワドラAS

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







自分は3度ほどメリーさんを見かけたことがある。劇中でも語っていた森永ラブ(今はもうないけど)とやはりイセザキモールの有隣堂辺りだったと思う。おもいっきり地元民の俺でもそれぐらいの遭遇率だった(俺はかなり少ないほうだけど)。もちろん地元近辺でメリーさんを知らない人はよっぽどの子供をを除けばいなかったんじゃないか。でもその素性は知る由もなく専ら噂レベルにとどまっていた。娼婦だという事以外は。しかしそれ以上の詮索も無かったし、初めて見た時も「うわぁ、あれがメリーさんか。白れーなぁ」位で周りの通行人もさして立ち止まって見入る程でもなく、今思えばあの日傘を差し全身純白の衣装を纏いポツりと佇む女性が平然と街に溶け込んでいた様な気がする。95年に忽然と姿を消したと言う事だが、その頃にはもう話題にも上がらなくなっていた(あくまで自分の周りでね)と思う。たぶん。

では何故この作品を観たのかと言うと、「地元民として全く自然な行為」としか言いようがない。やはり同じ地域で世界は違えど生活してきた人物の映画ってだけで観ない手はないだろうと。その甲斐あってか、馴染みの風景も見れたし、今も故郷の養老院でしっかりとした足取りで余生を送っている彼女を知る事ができた。俺が見かけた時のどこか寂しそうな、そして疲れたような表情とは打って変わってこっちも微笑んでしまうような笑顔もね。何を持ってしてあの優しい笑顔を見せたのかは分からないが、俺は素直に思った「メリーさん、元気で長生きしてね」ってね。上手く言えないけど、こればっかりはもう理屈じゃない。

又、一つの街におけるコミュニティ意識。その失われつつあるものの重要性を考えさせられる作品でもあった。

<追記> メリーさん去年の1月に亡くなってたんですね。享年84歳。ご冥福をお祈りします。(パンフを見て知ったが、本編でこの事に触れていないのは何故だろう)俺はエンドクレジット後の最後にテロップ一つでいいから入れてもよかったんじゃないかと思う。まあそれ以前に作品が完成されてたという事なのかな。それとも横浜の一つのエポックとして、メリーさんよ永遠なれって事なのかもしれないね。

でもメリーさんがいなくなった95年以降その後を追うように、例えば映画館というもので考えてみると、横浜では歴史のあるオデヲン座・横浜ピカデリー・横浜松竹・関内アカデミー・馬車道東宝会館・横浜日劇・横浜オスカーと立て続けに閉館してしまった。設備の整ったシネコンが流行り出したのもちょうどこのころだったし、まあ採算取れないんじゃ仕方がないかもしれない。勿論シネコンは便利だし何の文句もない。ただやっぱ寂しいよね。街中に古くからあり、思い出の映画を観た場所でもあるそういった劇場が消えてくのは。何かメリーさんと重なるところもあるかなあ、と。時代の移ろいというのは容赦ない、けどなにも変わらなければ「思い出」ってもんも作られない・・・。ちょっとノスタルジックになってしまった。でも、この「ヨコハマメリー」をシネコンではなく、まさにメリーさんの生活していた街の中心部にある小さな劇場でオンエアされた事はとても良かったと思う。観る方にとっても製作陣にとってもね。

まあでも、メリーさんの色々と悪いと言うか変な話も耳にするが(もちろん実話)、あえてこの作品ではその辺を語らないところがやむを得ないというか、まあそれで正解だったでしょうね。

(評価:★4)

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