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[コメント] スーパーマン リターンズ(2006/豪=米)

作り手に、スーパーマンへの愛と決意がなければ絶対に作れない作品。(2006.08.26.)
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 位置づけとしては『スーパーマンII』の続編と言える物語だが、映画の構成としてはリチャード・ドナーによる第1作目を踏襲している。スーパーマンの内なる葛藤と、超人的な力ではなく、悪知恵を使って世界を手に入れようとするレックス・ルーサーとの戦いが主軸となるからだ。

オープニングはジョン・ウィリアムズによるメインテーマが流れ、過去作のクレジットを受け継ぐ形だが、このオープニングが映画全体を象徴している。過去作にオマージュを捧げつつ、飛躍的に進歩した現代の映像技術を巧みに利用し、よりスピード感のあるかっこいいオープニングに仕上がっていた。

映画全体としてみても、基本的には過去作へのリスペクトを忘れず、技術革新により見事にアップデートさせた感じである。特に、レックス・ルーサーが企む新大陸創造を映像にすると、その迫力は昔と比較すれば桁違いで、スーパーマンに比べると弱い印象のレックス・ルーサーをも強そうに感じさせたのは、まさに映像技術の力によるものだと思う。

新しく作るからと、CGを無駄に派手にするだけではなく、オリジナルを生かしつつ、うまく映像技術を利用したことが非常に良かったと思う。

 上記のような部分で、スーパーマンへの愛は感じられるのだが、僕は映画を観ているとき、少し真面目に作りすぎているのではないか、という疑問も抱いていた。ユーモアに欠けるというのがその理由だ。クラーク=スーパーマンの葛藤をすごく丁寧に描写しているが、スーパーマンにしろ、敵役であるが憎めないレックス・ルーサーにしろ、あまり冗談らしいことを言わなくなっていたと思う。

 だが、終盤で、なぜここまで真面目に作っていたか、という理由がようやくわかった。それは「スーパーマンに重傷を負わせた」からではないだろうか。クリプトナイトによって、レックス・ルーサーに痛めつけられ、地球を救っても力果て、空から地面へ墜落するというスーパーマンらしからぬ重傷を負うところまでこの映画は描く。

この「スーパーマンに重傷を負わせた」ということこそ、『X-メン』を蹴ってまでこの映画を選んだブライアン・シンガーのスーパーマンへの愛と決意だと僕は感じた。ユーモアに欠けるのも、すべてこの痛みを伴うシーンに繋げるために思えた。

超人的な力を持ち、ほぼ無敵のはずのスーパーマンに大怪我を負わせ、生か死かを画面の中の一般大衆と同じように観客も見守らなければならない状況は、耐え難いことでもある。スーパーマンにこんなことがあっても良いのか、という信じられない思いに憤怒したくもなる。それだけスーパーマンという存在は大きいものであるし、しかも大怪我という意味では、かつてスーパーマンを演じた故クリストファー・リーブのことも気にかかってしまう。

それでまでスーパーマンを傷つけるということは、ものすごく勇気が必要なことであり、逆に言えばスーパーマンへの愛と、この映画を作ることへの決意がなければ、絶対にできないことだと思う。新しい『スーパーマン』を作る上での作り手の熱意が、終盤の痛みを伴う展開により伝わってきた。作り手の愛情の重要性をひしひしと感じられた。

 もちろん「まさかスーパーマンが死ぬことはない」とはわかってはいるのだが、それでもしっかりと怪我から復活し、空高く宇宙まで舞って行くスーパーマンを観たときは、喜びの気持ちが溢れた。危機的状況からの「帰還」という意味でも、まさに『スーパーマン・リターンズ』だった。

(評価:★4)

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