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[コメント] オペレッタ狸御殿(2004/日)

ポワトリン』の神様、『狸御殿』を撮る!?アートフィルムとしては陳腐でチープでも、日曜朝9時の子供向けドラマと思えば、とてつもなく豪華な一作である。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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脚本・浦沢義雄と言えば、ある世代は『ルパン三世』2部以降を思い出すのかもしれない。しかしそれをほとんど観ていなかった小生にとっては、浦沢は日曜不条理ギャグドラマの顔であった。ご存知ない方も多かろうが、一応正義の味方番組のポーズだけはとっておいて、設定紹介がとりあえず終わったらとんでもないオバカ世界へワープしてしまう、児童番組としてはあまりにも不遜な作品群だ。今でも、「自由意志をもって故郷に帰ってゆくバス停」とか、トンデモなネタを思い出すことができる。シリーズのひとつ、『美少女仮面ポワトリン』では、ヒロインに変身能力を与えてご町内の平和を守らせ、自分は持病療養のため美女とイタリアに旅立ってしまう「神様」を清順監督が演じた。その飄々として神秘性のかけらもない演技には、ちょっとほのぼのしてしまったものだった。

その清順が、浦沢と組んで『狸御殿』を撮ったというのだから、ずいぶん期待したものだ。その結果は「清順風味の日曜9時ドラマ」そのものであった。チープといえばあまりにチープすぎる美術に最初は鼻白んだものだが、次第に作品世界のミョーな味に呑まれてゆく。「姫の誕生日以外の日は毎日お祭騒ぎ」というセリフや、びるぜん婆々が今際の際に「今度生まれてくるときもびるぜん婆々に生まれたいわ〜♪」などと熱唱するシーンなど、これは浦沢脚本らしい(歌の作詞も彼。ミュージカルに挑んだ『うたう!大竜宮城』を彷彿とさせる)ナンセンスさだと鼻の下がこそばゆくなる。

しかしそれが時としてドシリアス…というかアーティスティックになると、間違いない、これは清順映画なんだな、ってことを思い出さされるのだ。桃山の限りを知らない自己愛に耽溺するシーンとか、剣を交えるシーンのマジカルな処理とか。

敢えて言えば美空ひばりは要らなかった。狸御殿のひばりはもっとうるさくておきゃんだ。女神になって煩悩を捨て去った幻影に価値はなかろう、と自分は思う。

妙に気に入ったところを挙げるとすれば、狸と間違えられて捕まり、民家の鍋のなかで「俺、ホントは狸だったのかもしれないなあ…」と独りごちる山本太郎か。これは地味だがなかなかの名シーンだ。

最後に、やはりチャン・ツィイーは眉間に皺を寄せて闘う剣戟ものよりも、こんな能天気な話のほうが合っている、と断言しておこう。彼女とオダギリジョーのデュエットは決して上手いとは言えないが、本来のツィイーらしい温かさが感じられ、こちらまでにやついてしまうのを隠せなかった。曲もなかなか親しみやすい名ナンバーがあったし、ね。

(評価:★3)

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