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[コメント] 日本沈没(2006/日)

正直な話、俺も「よく似た題名の別の映画」の前哨戦のつもりだった。だが、これはこれで懸命に頑張っているというのが鑑賞後の印象。スケールの小ささは否めないが、魂は十二分に受け取れた。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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もちろん前述の映画とは『日本以外全部沈没』なのだが、情報ではあまり期待できなそうだ。河崎実は当たりの少ない監督だし、もとより筒井康隆のスラップスティック作品の映画化に成功なし、という自分の経験論もあるしで、わざわざ映画館に行って観ることはないかもしれない。

話がそれた。『日本沈没』である。ディザスター映画ではたしかに落第点をつけるべきだろう。実際このタイトルを名乗るには見せ場が少なすぎ、それぞれの地の災害の派手さに息せき切って力を使い果たしたかのようにパニックは国家規模とは到底思えないお粗末さだ。

だがリメイクの価値はあった。災害から逃げるばかりなのではなく、本気でそれと闘う意志が表されていたからだ。小松左京の原作には、国土を失った日本人たちの新たな戦いを予告する第2部が予定され、それは上梓された(未読だが)。だが、それは旧作に相応しい続編であって、この映画作品には無縁のものだろう。何がなんでも日本列島にしがみ付いて生きてやる、というポジティブな執念が、樋口作品からは見えているからだ。

第1作はもちろんあれでよかった。日本が沈没するというインパクトだけで客がとれたからだ。だが、リメイクするのなら第1作とは違うサムシングが必要だ(だから自分は、リメイク映画が「原作の魂を失っている」といった批判はなるだけしないようにしている。もちろんそこに新たな魂が吹き込まれてこそのことなのだが)。『ローレライ』を観て、樋口監督にメンタルな描写は無理だという杞憂を抱いていたが、それは本当に杞憂にすぎなかったという確信を抱いている。国家を愛するのではなく、国土とともに育った人々を愛する「愛国心」の判りやすい発露にヤラれてしまったのだ。

草なぎが特攻めいた最期を遂げることに批判は集中するかもしれない。確かに第2次大戦の日本軍の特攻は愚劣の最たるものであった。愛国の魂はあっても死ぬ必然性が絶対的になかった愚策だ。だが草なぎの死は国土を守るための有効な賭けだ。同様に自らの体に傷を負いながらレスキューに命を賭する柴崎も現代の理想のヒロインだ。彼女と最初に救った少女の関係をご都合主義だと言わば言え。これは娯楽大作なのだぞ。同様に草なぎの母の住む会津を一切災害を襲わなかったのは…え〜い、旗色が悪くなってきたが、これは娯楽作品なんだぁ〜っ!!大体これを非科学的な解決のしかたとなじる観客は、日本が世界に誇るカタストロフ回避大快作『妖星ゴラス』を忘れてしまったのかと言いたくなる。樋口版「沈没」はその正統な後継者だ。科学的にはメチャクチャだが、スピリットは溢れるほどある!

ともあれ、細かいところをつつかなければ樋口作品、食事代一回分払っておつりがくる。傑作なんてご大層なものでは決してないが、彼の作品としては類のない快作だ。あとは特撮場面と平常ドラマのバランスを監督には充分とってくれと言っておきたい。

余談。富野由悠季監督の坊主姿には思わずバチが当たるぞ、と心配になったものだった(笑)。

(評価:★5)

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