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[コメント] 母なる証明(2009/韓国)

オープニングは、「母親」の無様なダンスから始まる。微笑を浮かべることもなく、ただ無表情に踊り続けるキム・ヘジャ。その姿からは明朗さはいささかも感じ取れず、ただ必死に生きる宿命を甘受する諦念すら漂ってくる。彼女はウォンビンのためにしか笑わない。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







二人の間に、誰も這いいる隙間も与えないこの母は、女王であると同時に従僕である閉鎖された王国の中にいる。どちらかが確実に、外の世界において犯罪を犯していようとも、そんなことは問題ではない。王として奉仕され、従僕として奉仕するその相手を失いかけることで、母親は必死に外からのくびきを絶とうとするのだ。

母親は愛情ゆえの怪物である。彼女は息子の良き母たろうとして自らグエムルと化する。その恐ろしさは超絶的である。ポン・ジュノの描く家族共同体は、『グエムル・漢口の怪物』では深く強い絆として好意的に描かれたが、ここではそれは既に、双頭のグロテスクな怪物として描写されている。イ・ビョンウのラテン的な熱情と虚しさを抱え込んだスコアは、この異常にして普遍的な家族愛の物語の不気味を、的確に消化し、昇華させている。キム・ヘジャの情念に翻弄されつつも、自らの手で結末を選択してゆく冷静さを喪わない演技が冴える演出であった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)DSCH[*] 牛乳瓶 セント[*]

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